日本三大妖怪は、種族として「鬼」「河童」「天狗」、または個別に「大嶽丸」「酒呑童子」「玉藻前」とされています。いずれも平安時代の頃から原型はありましたが、様々な舞台や、絵画、文学作品に登場することで形を変え、江戸時代にはほぼ現在のイメージが定着しました。ここではその概要について、簡単にご説明します。
妖怪って何? 日本三大って誰が決めたの?
妖怪とは
「妖怪(ようかい)」とは、一般常識を超える超自然的な現象が、不可思議な存在としてキャラクター化されたものです。「物の怪(もののけ)」「妖(あやかし)」「魔物(まもの)」「怪物(かいぶつ)」などとも呼ばれます。
古代においては脅威であり信仰の対象でしたが、中世になり物語や絵として表現されるようになると、次第に姿・形・性質が固定化されてきて、キャラクター化し、江戸時代には娯楽として定着しました。
妖怪の博物館ってあるの?
「妖怪博物館」という名の施設は千葉にありますが、それ以外にも妖怪をテーマとした博物館・美術館は全国にあります。また、常設ではないが特別展がされていることはよくあります。ここでは、いくつかの施設をご紹介いたします。
角川武蔵野ミュージアム(埼玉)
「角川武蔵野ミュージアム」は、埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内にある、図書館・美術館・博物館が融合した複合施設です。常設展はありませんが、過去に妖怪をテーマとしたイベントが開催されました。
妖怪大戦争展2021 ヤミットに集結せよ!(2021年)
角川武蔵野こども妖怪絵コンクール2021(2021年)
荒俣宏の妖怪伏魔殿2020 YOKAI PANDEMONIUM(2020年)
サイト | https://kadcul.com/ |
住所 | 埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 |
開館時間 | 日~木 10:00~18:00 金~土 10:00~21:00 |
休館日 | 毎月第1・第3・第5火曜日 |
料金 | エリアや日時によって異なる 1,400円~ |
大内かっぱハウス&山口敏太郎の妖怪博物館(千葉)
「大内かっぱハウス」は、千葉県銚子市にある、「河童」をテーマとした博物館です。元銚子市長である大内恭平氏が収集した「かっぱグッズ」約4,000点が展示されています。またかっぱ以外にも、オカルト研究家の山口敏太郎氏による妖怪博物館が併設されています。
サイト | https://kappa-house.com/ |
住所 | 千葉県銚子市中央町6-25 |
開館時間 | 土・日・祝日 10:00~17:00 |
休館日 | 平日 |
料金 | 無料 |
江戸東京博物館(東京)
「東京都江戸東京博物館」は、東京都墨田区にある、「江戸」をテーマとした博物館です。常設展はありませんが、過去に妖怪をテーマとした企画展がありました。
大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで(2016年)
現在大規模改修のため、2025年まで休館予定となっています。
サイト | https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/ |
住所 | 東京都墨田区横網1-4-1 |
開館時間 | 9:30~17:30 |
休館日 | 毎週月曜日(2025年まで休館中) |
料金 | 常設展 600円 |
鬼太郎茶屋(東京)
「鬼太郎茶屋」は、東京都調布市の深大寺門前にある『ゲゲゲの鬼太郎』をテーマとしたカフェです。妖怪グッズショップや、水木しげる氏に関連した「妖怪ギャラリー」が併設されています。
サイト | https://kitaro-chaya.jp/ |
住所 | 東京都調布市深大寺元町5-12-8 |
開館時間 | 10:00~17:00 |
休館日 | 毎週月曜日 |
料金 | 妖怪ギャラリーは100円 |
鳥羽市立海の博物館(三重)
「鳥羽市立海の博物館」は、三重県鳥羽市にある、人間と海の関わりについての博物館です。妖怪についての施設ではありませんが、過去に、海の妖怪をテーマにした特別展が開催されました。
海の博物館 特別展「海のなかは妖怪ワールド」(2022年)
サイト | http://www.umihaku.com/ |
住所 | 三重県鳥羽市浦村町大吉1731-68 |
開館時間 | 3月~11月 9:00~17:00 12月~2月 9:00~16:30 |
休館日 | 6月26日~6月30日 12月26日~12月30日 |
料金 | 800円 |
辻川山公園(兵庫)
「辻川山公園」は、兵庫県神崎郡にある公園です。民俗学者の柳田國男氏の出身地にちなみ、様々な妖怪像や記念館が併設されています。
サイト | http://www.fukusakikankou.jp/kappa.html |
住所 | 兵庫県神崎郡神崎町西田原1038-12 |
開館時間 | 終日 |
休館日 | 無休 |
料金 | 無料 |
三次もののけミュージアム(広島)
「湯本豪一記念日本妖怪博物館」通称「三次(みよし)もののけミュージアム」は、広島県三次市にある、妖怪をテーマとした博物館です。妖怪研究家の湯本豪一氏が収集した妖怪コレクション約5,000点が展示されています。運営は三次市で、妖怪をテーマとした公的な博物館としては、日本初となります。
サイト | https://miyoshi-mononoke.jp/ |
住所 | 広島県三次市三次町1691-4 |
開館時間 | 9:30~17:00 |
休館日 | 毎週水曜日 |
料金 | 600円 |
妖怪屋敷・石の博物館(徳島)
「妖怪屋敷・石の博物館」は、徳島県三好市の「道の駅大歩危(おおぼけ)」にある施設です。地元と関連の深い70体の妖怪が展示されいる他、子どもが楽しめるコーナーが用意されています。
サイト | https://www.awanavi.jp/spot/20330.html |
住所 | 徳島県三好市山城町上名1553-1 |
開館時間 | 9:00~17:00 |
休館日 | 12月・1月・2月の火曜日 |
料金 | 700円 |
水木しげる記念館(鳥取)
「水木しげる記念館」は、鳥取県境港市にある商店街「水木しげるロード」内の施設です。妖怪漫画家である水木しげる氏が生まれ育った地であることにちなみ、水木しげる氏が収集した妖怪コレクションや、作品などが展示されています。
現在、建て替え工事中のため2024年まで休館予定となっています。
サイト | http://mizuki.sakaiminato.net/ |
住所 | 鳥取県境港市本町5 |
開館時間 | 9:30~18:00 |
休館日 | 無休(2024年まで休館中) |
料金 | 700円 |
ゲゲゲの妖怪楽園(鳥取)
「ゲゲゲの妖怪楽園」は、鳥取県境港市にある「水木しげる記念館」に隣接された、妖怪テーマパークです。基本的には子供向けの施設で、一部の場所は「大人立入禁止」となっています。
サイト | https://www.yokairakuen.jp/ |
住所 | 鳥取県境港市栄町138 |
開館時間 | 9:30~17:00 |
休館日 | 不定 |
料金 | 無料 |
小泉八雲記念館(鳥取)
「小泉八雲記念館(こいずみやくもきねんかん)」は、鳥取県松江市にある、作家・小泉八雲氏についての記念館です。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)氏は、日本の怪談話を集め、英語で『Kwaidan(怪談)』として出版したことで知られています。作家についての記念館なので、妖怪がメインテーマではありませんが、作品を通して妖怪を感じることができます。
サイト | https://www.hearn-museum-matsue.jp/ |
住所 | 島根県松江市奥谷町322 |
開館時間 | 4月~9月 8:30~18:30 10月~3月 8:30~17:00 |
休館日 | 無休 |
料金 | 小泉八雲旧居共通 560円 |
妖怪美術館(香川)
「妖怪美術館」は、香川県小豆島にある妖怪アートのギャラリーです。迷路のまちと呼ばれる細い路地にある古い建物を利用し、1号~4号までの4館あります。それぞれ伝統的なものから、現代のオリジナルのものまで、様々なテーマの作品が800点以上展示されています。
サイト | https://yokaimuseum.on-the-trip.com/ |
住所 | 香川県小豆郡土庄町甲398 |
開館時間 | 木曜 14:00~22:00 木曜以外 9:00~22:00 |
休館日 | 毎週水曜日 |
料金 | 2,900円 |
日本三大妖怪を決めたのは
日本三大妖怪について明確な定義はありませんが、有識者の説として、下記の2つが採用されることが多いです。
妖怪研究家・多田克己
妖怪研究家で作家の多田克己(ただかつみ)氏によると、日本三大妖怪は「鬼」「河童」「天狗」だとされています。
文化人類学者・小松和彦
文化人類学者で民俗学者の小松和彦(こまつかずひこ)氏によると、日本三大妖怪は「酒呑童子(鬼)」「大嶽丸(鬼神)」「玉藻前(妖狐)」だとされています。
その理由は、三匹の妖怪が討伐された後、その首が、宇治の平等院の宝蔵に納められたという共通点があるためです。
ここから、中世の文学作品では世界観が共有されて相互に影響しあっていたということと、時の権力者が力の誇示のために利用するほどメジャーな妖怪であったということが分かります。
日本三大妖怪 鬼・河童・天狗
鬼とは
「鬼(おに)」は妖怪の一種です。日本三大妖怪の一つとしてあげられるほど、日本人には馴染み深いものです。
基本的には、下記のような姿で描かれます。
- 大きな人の形をしている
- 頭に1~2本の角が生えている
- 髪の毛は縮れているか、頭頂部が剥げている
- 牙が生えている
- 指に鋭い爪が生えている
- 腰に腰布を巻いている
- 手に突起のついた金棒を持っている
- 肌の色は赤や青など、普通には存在しない色をしている
「隠(おん)」が語源と考えられています。
仏教・神道・陰陽道・修験道とも結びつき、様々な解釈がされています。時代によってもイメージは様々で、死霊や、人間の憎悪が実体化したものとされることもあります。山に住んでいるとされることが多く、山岳信仰とも結びつきが深いです。
また、善悪を超越して、人間離れした凄いものという意味で「○○の鬼」などと表現されることもあります。
河童とは
「河童(かっぱ)」は、川や沼に住む妖怪の一種です。日本三大妖怪の一つに挙げられるほど身近な妖怪ではありますが、そのイメージが固まったのは意外と新しく、1927年(昭和2年)に芥川龍之介が発表した小説『河童』がきっかけと言われています。
以下のような姿で描かれることが多いです。
- 背の低い人型
- 肌は緑色
- 頭に皿をのせている
- クチバシがある
- 手足に水かきがある
- 亀のような甲羅を背負っている
河童のイメージが定着するまでは、各地にそれぞれ伝わっていた水神や妖怪の類だったため、その性格は様々です。「いたずら好きだが人を助ける」とされることもあれば、「水に引き込み溺死させる」とされることもあります。多くの場合、頭の皿が乾いたり割れたりすると、力を失うとされています。
天狗とは
「天狗(てんぐ)」は妖怪の一種ではありますが、山の神とされることもあります。日本三大妖怪の一つにあげられています。天狗は、奈良時代に山岳信仰や修験道と結びつき、超人的な存在として誕生しました。不可解な事件が発生すると「それは山に住む天狗の仕業」と噂されました。また傲慢な人を「天狗になる」と表現することもあります。
天狗のイメージは時代によって大きく変わっており、現在一般的となっている下記のような特徴は、近世以降の創作によるものと考えられています。
- 人型
- 山伏の格好をしている
- 一本足の下駄を履いている
- 顔は赤い
- 鼻が高い
- 口はクチバシになっていることがある
- 羽団扇を持っている
天狗のルーツは中国にあり、人ではなく犬の姿をしていました。中国では流星は凶事の印とされており、流星の爆発音が犬の咆哮のように聞こえたため、「天の狗(いぬ)」つまり「天狗」とされました。それが日本に伝わった後に、「狐」「烏(カラス)」のイメージを経て、山伏の姿に落ち着いたようです。
日本三大妖怪 大嶽丸・酒呑童子・玉藻前
大嶽丸とは
「大嶽丸(おおたけまる)」は、伊勢(三重県)と近江(滋賀県)の間の鈴鹿山(すずかやま)に住んでいたとされる鬼神です。日本三大妖怪の一つとしてあげられています。鬼神魔王とも言われ、神通力を操り、悪逆の限りをつくしたとされています。
様々な言い伝えがありますが、室町時代にまとめられた『田村の草子』が特に有名です。簡単に言うと、桓武天皇(在位期間781~806年)の時代、田村丸と、鈴鹿山に住む天女・鈴鹿御前が協力し、大嶽丸を討ち取り、その首を宇治の宝庫の納めた、というストーリーです。その他、様々なバリエーションがあります。
大嶽丸の伝説は、当時の山賊や、それを平定した軍、疫病など、史実とフィクションが混じり合いできてきたと考えられています。また田村丸のモデルは征夷大将軍として活躍した坂上田村麻呂であるという説があります。
酒呑童子とは
「酒呑童子山(しゅてんどうじ)」は京都にある大江山(おおえやま)に住んでいたとされる鬼です。大江山ではなく伊吹山とされることもあります。日本三大妖怪の一つにあげられています。酒が好きであったことから、酒呑童子と呼ばれていました。酒呑童子は多数の鬼を従えていました。特に「茨木童子(いばらきどうじ)」は、右腕的存在であったとされています。
一条天皇(在位期間986年~1011年)の時代、京で姫が拐われる事件が多発し、源頼光に大江山の鬼退治の勅命が下ります。源頼光は毒酒で酒呑童子を酔い潰し、その首を討ち取った、という話です。
国宝として東京国立博物館に保存されている刀剣「童子切」は、酒呑童子の首を切り落とした刀とされています。もちろんフィクションと考えられますが、大江山に盗賊団がいたことは『今昔物語集』にも記されており、また渡来系勢力が住んでいたともされるため、史実と伝承が混じり合ってできた物語と考えられています。
玉藻前とは
「玉藻前(たまものまえ)」は、鳥羽天皇(在位期間1107年~1123年)の寵愛を受けた絶世の美女です。しかしその正体は人間ではなく、妖狐であったとされています。日本三大妖怪の一つに数えられています。
室町時代に成立した『玉藻の草子』や、能の『殺生石』が有名です。
玉藻前は、その美貌と博識で鳥羽上皇を魅了し、寵愛されていました。しかし上皇は次第に病に伏せるようになります。陰陽師が原因を調べたところ、玉藻前の仕業であると見抜きます。追い詰められた玉藻前は九尾の狐の姿となり、行方をくらまします。その後、那須野(栃木県)で発見されたところを討伐されますが、その怨霊は「殺生石」となって毒を撒き散らし、近づく生物の命を奪うようになった、とされています。
玉藻前のモデルは、寵妃から皇后となった藤原得子・美福門院(びふくもんいん)であるという説があります。
また、栃木県那須郡の那須温泉にある溶岩付近からは、常に有毒な火山ガスが噴出しており、「殺生石」と呼ばれています。松尾芭蕉が訪れ『おくのほそ道』にも記されていることで知られています。また、2022年には殺生石が真っ二つに割れ、話題となりました。もちろん自然に割れたと考えられますが、当時の世界情勢が荒れていたため、関連性を指摘する声がありました。
まとめ 日本三大妖怪について
日本三大妖怪とは、妖怪研究家の多田克己の説によると「鬼」「河童」「天狗」です。文化人類学者の小松和彦によると「大嶽丸」「酒呑童子」「玉藻前」です。
「鬼」「河童」「天狗」は、日本人に一番馴染みが深い妖怪としてい知られています。
「大嶽丸」「酒呑童子」「玉藻前」は、史実と伝承、時の権力者によるプロパガンダ、様々な文学・芸術作品が絡み合い、現在のイメージへと発展してきました。