エドックスは、スイスの機械式時計ブランドとして、申し分ない品質とデザインを持ちながら、驚くほどの低価格を実現しています。その理由は何でしょうか。この記事では、エドックスの概要、歴史、特徴と、代表的コレクションについてご紹介した後、ムーブメントの違いが値段に与える影響について解説しています。
ポイント
- エドックスの特徴
- エドックスが人気の理由
- エドックスの代表的コレクション
- エドックスが安い理由
- 自社製ムーブメントと他社製ムーブメント
安いのに高品質? エドックスが選ばれる理由
エドックスの特徴と、人気の理由、代表的なコレクションについて解説します。
エドックスの概要と歴史
「エドックス(Edox)」は、スイスの高級時計ブランドです。特にダイバーズウォッチで有名です。
1884年に、「クリスチャン・リュフリ=フルーリー(Christian Ruefli-Flury)」によって、スイスの「ビール/ビエンヌ(Biel/Bienne)」で設立されました。
時計職人であったフルーリーは、妻の25歳の誕生日に、自身でデザインした懐中時計をプレゼントします。その時計があまりにも美しかったことから、妻はフルーリーに時計ブランドの設立を勧め、エドックスの誕生に至りました。
「エドックス」とは、古代ギリシア語で「時間」を意味します。
ブランドのロゴマークは砂時計をイメージしたもので、リューズなどに描かれています。
エドックスは、1961年に開発した「ダブル-Oリング」機構が有名で、これによりねじ込み式リューズを使わずに、防水性能200mを達成しました。
以後、「The Water Champion」をスローガンとし、ダイバーズウォッチとして高い評価を得ています。ヨットやボートレースなど、様々なマリンスポーツで、公式タイムキーパーを努めています。
近年は、ダカールラリーなど、陸上モータースポーツへも力を入れています。
エドックスの特徴と魅力
エドックスが選ばれる理由についてご紹介します。
力強さと美しさ
エドックスの特徴は、堅牢なスポーツ時計でありながら、エレガントさを兼ね備えているところです。
細部のパーツを一つ一つ見れば、とてもゴツいのですが、全体的には洗練された美しさがあります。
高品質かつ低価格
エドックスは、いわゆるスイスの高級機械式時計でありながら、価格は控えめです。
それでいて、精度、性能、素材、デザインについては申し分ありません。
非常にコストパフォーマンスに優れたブランドと言えるでしょう。初めての一本としても最適です。
エドックスの代表的コレクション
エドックスは「The Water Champion」のスローガンにある通り、ダイバーズウォッチで有名です。
それ以外に、モータースポーツや、ドレスウォッチのコレクションもあります。
代表的なコレクションについてご紹介します。
クロノオフショア1
「クロノオフショア1(Chronoffshore-1)」は、パワーボートという海上モータースポーツにインスピレーションを得たコレクションです。
高い防水性能に、カーボン・チタン・セラミック・サファイアガラスなどの素材を組み合わせ、エクストリームな耐久仕様でありながら、エレガンスさも漂う、エドックスのフラッグシップモデルです。
デルフィン
「デルフィン(Delfin)」は、1961年にねじ込み式なしで200mの防水性能を実現した歴史的モデルの、復刻版です。
ブレイクスルーとなった「ダブル-Oリング」機構は、今なお引き継がれています。
スポーティからクラシックまで、デザインの幅も多彩です。
ネプチュニアン
「ネプチュニアン(Neptunian)」は、ダイバーズウォッチのコレクションです。
1000mの防水性能、ハイセラミックベゼル、ヘリウムエスケープバルブといった本格的な機能を備えています。
ケース裏には海の神「ネプチューン」が刻印されています。
もともとは「スカイダイバー」の一部でしたが、独立したコレクションとなりました。
グランドオーシャン
「グランドオーシャン(Grand Ocean)」は、航海をイメージしたコレクションです。
モダンかつラグジュアリーな、美しいデザインが特徴です。
スカイダイバー
「スカイダイバー(Skydiver)」は、1973年にスイス軍のパラシュート部隊用に作られたミリタリーウォッチの、復刻版です。
位置づけとしてはダイバーズウォッチですが、「陸、海、空」のどのような環境でも使用できることを目指して作られました。
ドーム型の風防が特徴です。
クロノラリー
「クロノラリー(Chronorally)」は、ラリーレースの過酷な環境に耐える堅牢性と、運転中にも操作できるボタンが特徴の、大ぶりなコレクションです。
レ・ヴォベール
「レ・ヴォベール(Les Vauberts)」は、クラシックなドレスウォッチです。
「レ・ヴォベール」とは、スイスの伝説的な時計製造地ということですが、そういう地名がある訳ではないようです。ケースバックに建物の絵が刻印されていることから、工房の名前と思われます。
レ・べモン
「レ・べモン(Les Bémonts)」は、シックなデザインが特徴のドレスウォッチです。
1994年時点では、世界最薄のドレスウォッチとして有名になりました。
エドックスが安い理由
エドックスの価格が他のスイス時計に比べて安いのは、ムーブメントの違いが大きいです。エドックスの方針と、スイス時計のムーブメント事情について解説します。
ムーブメントが他社製
エドックスの値段が安い一番の理由は、他社製のムーブメントを使用しているためです。
こちらの表は、有名なダイバーズウォッチの価格を比較したものです。実際の価格は、モデルや時期によってかなり幅がありますので、大雑把な比較であることをご了承ください。
ブランド | コレクション | 参考価格 | ムーブメント |
---|---|---|---|
ロレックス | サブマリーナー | 200万 | 完全自社 |
オメガ | シーマスター | 100万 | ほぼ自社 |
パネライ | ルミノール | 100万 | ほぼ自社 |
IWC | アクアタイマー | 80万 | ほぼ自社 |
チューダー | ブラックベイ | 50万 | ほぼ自社 |
ブライトリング | スーパーオーシャン | 50万 | 自社・他社混在 |
タグ・ホイヤー | アクアレーサー | 30万 | 自社・他社混在 |
エドックス | クロノオフショア1 | 25万 | ほぼ他社 |
ムーブメントとは、時計の心臓部であり、針を一定の間隔で進めるための仕組みです。機械式時計の場合、動力源であるゼンマイ、動力を伝えるための歯車、一定の振動に変換する脱進機などのパーツからなります。
この表を見ると、ムーブメントを自社開発している会社ほど値段が高く、他社のムーブメントを流用しているほど安くなることが分かります。
エドックスは組み立て屋
伝統的に、スイスの時計製造では、分業体制が行われてきました。
だいたい、以下の5つに分けることができます。その中でさらに細分化していることもあります。
- ブランディング:販売戦略を立て、デザインやマーケティングを行う
- 販売・サポート:時計を販売し、修理やメンテナンスを行う
- ムーブメントの製造:ムーブメントを製造する
- 外装部品の製造:ケース、文字盤、針などを製造する
- 組み立て:ムーブメントと外装部品を組み合わせ、精度の調整と、品質検査を行う
エドックスは、自社ブランドの時計を販売する一方で、他社ブランドの時計の組み立てを担当してきました。
つまりエドックスは、組み立てのプロフェッショナルなのです。その実力は、スイスの中でもトップクラスであり、だからこそ依頼されてきたと言えます。
部品については圧倒的なノウハウを持っているため、高品質・高性能な部品を使い、低コストで仕上げることが可能となっています。
他社製ムーブメントのメリット・デメリット
エドックスでは、自社開発のムーブメントはほとんどなく、ほぼ他社製のムーブメントを流用・カスタマイズしているとされています。
そのメリット、デメリットについてご紹介します。
メリット
低価格
他社製ムーブメントを利用することの一番のメリットは、価格を抑えることができることです。
それもただ安いだけでなく、高品質のムーブメントを低価格で利用することができます。
ムーブメント開発会社はそれを専門でやっているので、当然性能は高いですし、多くの時計ブランドに提供しているため、信頼性もあります。
開発速度が速い
また、ムーブメントは他社に任せることで、自社はデザイン等に集中することができ、新作を出すサイクルも早くなります。
よりマーケットを捉えた製品を打ち出すことができるようになるでしょう。
デメリット
デザインが似る
他社製ムーブメントを利用すると、どうしても時計全体のデザインが似てきてしまいます。
また当然ながら、性能も似たり寄ったりとなります。
ロマンがない
そもそも実用性のことを考えるならば、機械式時計ではなく、クォーツ式時計が選ばれるでしょう。
機械式時計は、「機械式なのに、ここまでできた!」というロマンで選ばれているのです。
他社製のムーブメントを利用すると、そのロマンがなくなってしまいます。
ETA問題
分業体制のスイスにおいて、ムーブメントを独占的に提供していたのがETA社です。ETA社はスウォッチグループに所属しています。
そのETA社が、2000年代初頭に「スウォッチグループ以外にムーブメントを提供することを、段階的に終了する」と発表し、大騒動となりました。
これを受けて多くの時計ブランドが、ムーブメントの自社開発を始めるか、Sellita社など他のムーブメントに切り替えるか、という対応を余儀なくされました。
上の表にあげたロレックス以外のブランドのほとんどは、このETA問題によって、自社開発へと舵を切ったのです。
それに比べると、エドックス社は対応が遅れているように思われます。
ETA以外にもムーブメントを提供している会社はありますので、それで良しとする考えもあります。しかし、将来的にETAと同じ問題が発生する可能性もありますので、自社開発する体制がないと、時計ブランドとしての基盤が弱くなっていしまいます。
ブランド力が弱い
エドックスは、1884年創業という、140年近い歴史があるブランドです。1905年創業のロレックスより古いです。
しかしその割には、知名度がそこまで高くありません。
日本に本格的に進出したのは、2007年のことなので、まだ仕方がないのかなというところはありますが、世界的に見てもそこまで有名ブランドという訳ではありません。
ブランドヒストリーとしても、特筆すべきは「ダブル-Oリング」くらいで、少しインパクトに欠けるところです。
時計はロマンが大切となるので、ブランド力が弱いと、価格も低くなりがちです。むしろ、現在でもまだ高いと言われているほどです。
エドックスは、マリンスポーツやモータースポーツとのパートナーシップに力を入れていますで、そこでブランド力が強化されれば、値上がりする可能性はあるでしょう。
コスパを求めるならおすすめ
このように、価格が安いことや、ブランド力が弱いことは、悪い事のようにも思えますが、むしろ高品質な時計を安価で購入できるメリットと見ることもできます。
時計の製造技術も進歩していますので、自社開発のムーブメントにしろ、他社ムーブメントにしろ、日常レベルにおいてそこまで性能に差はありません。
高性能で、丈夫で、デザインも良く、さらに安価な時計を求めるのであれば、エドックスは最適なブランドとなるでしょう。
まとめ エドックスが高品質なのに安い理由
記事の内容をまとめます。
- エドックスは、1884年にスイスで創業された、老舗の時計ブランド
- エドックスは、「ダブル-Oリング」機構と、ダイバーズウォッチで有名
- エドックスは、他のスイス時計ブランドに比べて、低価格
- エドックスは、スイス時計産業の中で、組み立てを担当してきており、部品に対しての知識が豊富
- エドックスは、他社製のムーブメントを使用することで、高品質・低価格を実現している
- 若干知名度が低いことも、価格に影響している