かつて、日本ワインは美味しくないと言われることが多くありました。日本ワインの風味は独特で、海外のワインと比較すると薄いと感じる人もいます。しかしそれは、日本ワインの特性であり、品質の低さを示すものではありません。近年では、日本ワインの世界的評価は高まってきており、国際的なコンテストでも賞を取っています。この記事では、日本ワインが「美味しくない」とされる理由と、その評価について詳しく解説します。
ポイント
- 日本ワインの産地とその特性
- 日本ワインの価格が高い理由
- 日本ワインの特徴的な風味とその原因
- 日本ワインの世界的評価とその進化
日本ワインってどんな特徴?美味しくないって聞いたけど
日本ワインとは
日本ワインとは、日本国内で栽培されたブドウ100%を原料に、日本国内で醸造されたワインのことを指します。この定義は2015年に「果実酒等の製法品質表示基準」として制定され、2018年から施行された比較的新しいもので、それ以前は日本で醸造されたワイン全てを日本ワインと呼んでいました。しかし、その中には海外から輸入したブドウや濃縮果汁を使用したものも含まれていました。そのため、現在ではこれらを「日本ワイン以外の国内製造ワイン」と分類し、日本ワインとは明確に区別しています。
日本ワインの生産地は日本全国に点在していますが、特に多くのワイナリーが存在するのは山梨県で、全国のワイナリー数の約25%を占めています。その他にも長野県、北海道、山形県、岩手県などにも多くのワイナリーが存在します。
日本ワインの生産量は年々増加傾向にありますが、全国のワイン生産量に占める割合は約20%程度で、全体から見るとまだ多くはありません。その一方で、日本ワインの品質は高く評価されてきており、赤ワイン、白ワイン、スパークリングワインなど様々な種類が生産されています。
日本ワインの特徴としては、繊細でフルーティーな味わいが挙げられます。これは日本の気候や土壌、ブドウ品種の選択など、ワインのテロワール(土地の特性)が反映されているからです。また、日本ワインは和食との相性が良いとされており、その繊細な味わいは、「寿司」や「すき焼き」などの日本食とよく合います。
日本ワインと国産ワインの違い
「日本ワイン」という名称が定義される前は、「国産ワイン」という呼び名が一般的でした。その主な違いは、ブドウの原産地にあります。
国産ワインは、日本国内で醸造されたワインを指しますが、そのブドウの原産地は問われません。つまり、国内で醸造されていれば、ブドウが海外から輸入されたものであっても国産ワインと呼ぶことができます。
一方、日本ワインは、日本国内で栽培されたブドウを100%使用して醸造されたワインのみを指します。2015年に国税庁がガイドラインを制定し、日本ワインは国産ブドウを100%使用して造られたワインとされました。そのため、一部でも国外産のブドウを使用していれば日本ワインと名乗ることはできません。
また、特定の地域で生産されたブドウを85%以上使用していれば、その地域の名前をラベルに記載することが可能です。これにより、消費者はワインの品質だけでなく、そのワインがどの地域のブドウから作られたのかを知ることができます。
このように、日本ワインと国産ワインの違いは、使用されるブドウの原産地にあります。ワインの品質は、その地域の気候や土壌に大きく影響されます。日本ワインの定義を明確にすることで、品質の向上と、ブランド化が図られています。
日本ワインの品種
日本ワインで使用されるブドウの品種は、次の5つに分類することができます。「日本固有の品種」「アメリカ系の品種」「ヨーロッパ系の品種」「交配種」「野生種」です。
日本固有の品種として特筆すべきものは「甲州」と「マスカット・ベーリーA」です。
「甲州」は、山梨県を代表する白ブドウで、その歴史は1300年以上にも及ぶとされています。清涼感と繊細な香りが特徴で、主に白ワインとして使用されます。
「マスカット・ベーリーA」は、山梨県を始めとして多くの地域で栽培されている黒ブドウです。明るい色合いで、チェリーやキャンディーのような、果実感のある軽やかな味わいが特徴です。
以下に、代表的な品種を表にまとめます。
名前 | 種類 | 原産 |
---|---|---|
甲州 | 白 | 日本 |
マスカット・ベーリーA | 黒 | 日本 |
ヤマブドウ | 黒 | 日本 |
ナイアガラ | 白 | アメリカ |
デラウェア | 白 | アメリカ |
コンコード | 黒 | アメリカ |
キャンベル・アーリー | 黒 | アメリカ |
シャルドネ | 白 | ヨーロッパ |
ピノ・グリ | 白 | ヨーロッパ |
リースリング | 白 | ヨーロッパ |
アルバリーニョ | 白 | ヨーロッパ |
ゲヴェルツトラミネール | 白 | ヨーロッパ |
ソーヴィニヨン・ブラン | 白 | ヨーロッパ |
ピノ・ブラン | 白 | ヨーロッパ |
メルロー | 黒 | ヨーロッパ |
カベルネ・ソーヴィニヨン | 黒 | ヨーロッパ |
ピノ・ノワール | 黒 | ヨーロッパ |
ツヴァイゲルト | 黒 | ヨーロッパ |
プティ・ヴェルド | 黒 | ヨーロッパ |
カベルネ・フラン | 黒 | ヨーロッパ |
レンベルガー | 黒 | ヨーロッパ |
トロリンガー | 黒 | ヨーロッパ |
ミュラー・トゥルガウ | 白 | 交配 |
バッカス | 白 | 交配 |
ケルナー | 白 | 交配 |
レッド・ミルレンニューム | 白 | 交配 |
甲斐ブラン | 白 | 交配 |
信濃リースリング | 白 | 交配 |
リースリング・フォルテ | 白 | 交配 |
リースリング・リオン | 白 | 交配 |
サンセミヨン | 白 | 交配 |
セイベル9110 | 白 | 交配 |
ドルンフェルダー | 黒 | 交配 |
ベーリー・アリカントA | 黒 | 交配 |
ブラック・クイーン | 黒 | 交配 |
甲斐ノワール | 黒 | 交配 |
巨峰 | 黒 | 交配 |
ビジュノワール | 黒 | 交配 |
アルモノワール | 黒 | 交配 |
セイベル13053 | 黒 | 交配 |
日本ワインの産地
日本ワインの産地としては、山梨県、長野県、北海道、山形県が特に有名です。これらの地域はブドウ栽培に適した気候と土壌を持ち、それぞれの地域特性を活かした高品質なワインが生産されています。
特に山梨県は日本ワインの生産量が最も多い地域であり、日本のワイン産業を牽引する存在となっています。山梨県は、夏と冬の温度差が大きく、降水量が少ないために、ブドウの栽培に適しているとされています。また、山梨県は「地理的表示(GI)」という、地域らしさを反映した特産品に与えられる知的所有権を持つワイン産地として、初めて認定された地域です。
一方、長野県や北海道、山形県でも、それぞれの地域の気候や土壌を活かしたブドウ栽培が行われ、多様な味わいのワインが生産されています。これらの地域もまた、日本ワインの品質向上に貢献しています。
近年では大阪府や熊本県など、全国各地でブドウ栽培が行われ、地域特性を活かしたワインが生産されています。これらの地域でも、品種と風土の多様性を生かしたワインが生み出されており、世界が認めるワイナリーも存在します。
日本ワインの歴史
世界のワインの歴史は古く、紀元前8,000年頃より存在すると言われています。それに比べると、日本のワインの歴史は新しく、140年ほどとなります。
日本のワインの生産は、明治時代(1868~1912年)の初期に始まりました。この時期は、製造技術が未熟であったことと、日本の食文化と合わなかったことから、なかなか広がりませんでした。そこで、ワインに砂糖や香料などを加え甘口としたところ、庶民の酒として大ヒットしました。ところがこれが、日本のワインの普及を妨げることとなります。
第二次世界大戦終了後には、本格的なワインが輸入され始めましたが、ワインは甘いものという認識が定着してしまっていたため、受け入れられませんでした。
それでも、東京オリンピック(1964年)、大阪万博(1970年)などを機に、徐々に広がりを見せます。
そして、1980年代後半のバブル期に、富裕層を中心として、高級ワインのブームが起きます。
1990年代に入ると、輸入ワインが低価格化し、家庭にも広がり始めます。そして1990年代の後半には、ポリフェノールが健康に良いということから、赤ワインブームが起きました。また、日本人ソムリエが世界で活躍し始めます。
結果、日本にもワイン市場が定着したことから、日本でのワイン生産も盛んになり、ワイナリーの数も増えていきます。しかしながら、市場からは「日本ワインは美味しくない」という評価が下されてしまいます。
それでもワイン生産者は、海外のワインを真似るのではなく、日本らしいワインを作ることを目的に掲げ、改善を続けます。「日本ワイン」という表示ルールが施行されたのは、2018年のことです。
近年では、国際コンクールでも優秀な賞を受賞するなど、日本ワインは世界からも注目を集めるようになってきています。
なぜ日本ワインは高いのか
一般的に、日本ワインの値段は高いと言われています。その理由をご説明します。
日本だから高い
一般的に製造業は、安い原材料を輸入したり、人件費の安い海外で生産をしたりして、コストダウンをします。
ところが日本ワインは、日本でブドウを栽培し、醸造することが義務付けられているので、材料費・設備費・人件費等が高くなることになります。
ブドウの栽培が大変
日本の気候は、必ずしもブドウの育成に適してはいません。山梨などは適しているとは言われていますが、それでもヨーロッパ等に比べると、より栽培の手間暇がかかることになります。
ブドウの生産数が少ない
海外に比べると、日本のフルーツの価格は、驚くほど高いことが知られています。これは、栽培農家が、薄利多売をするより、高品質なものを少量販売した方が利益になる構造になっているためです。
ブドウ栽培農家にとっては、ワイン醸造用のブドウを作るより、食用の高級ブドウを作った方が儲かるようになっています。
そのため、ワイン醸造用ブドウの絶対数が少なく、ワインも少量しか作ることができません。結果、ワインの価格も高くなります。
国産ワインのうち、日本ワインの占める割合は20%以下。輸入ワインも含めたワイン全体のうち、日本ワインの占める割当は5%程度となります。
酒税法の対応が大変
酒類の製造・販売について定めた酒税法に対応するには、膨大な管理・報告業務が必要となります。
当然、その分の人件費がかかりますので、ワインのコストに上乗せされることになります。
日本ワインって本当に美味しくないの?
日本ワインはまずい?
「日本ワインはまずい」という評価が、かつて広まっていたことは事実です。これにはいくつかの理由があります。
味が独特
1990年代のワインブーム以降、日本にもワイン通が増えました。その方々にとって、ワインのお手本は、ヨーロッパ・アメリカ・南米などとなります。
それら比べると、日本ワインの風味は独特なので、期待していた味と違うということで、「美味しくない」なります。
ペアリングが未開発
ワインは、特定の食事やつまみと一緒に楽しむことで、その味わいを高めることができます。赤ワインは肉料理、白ワインは魚料理というのはよく知られた話です。
日本ワインには、脂っこいものではなく、和食が合うと言われていますが、日本ワイン自体の知名度が低く、定番のペアリングも知られていないことが多いです。
結果、相性の良くない食事と一緒に飲むことで、美味しくないと感じてしまうかもしれません。
価格とのバランス
一般的に日本ワインは高価なため、その価格とのバランスから、期待した品質を満たさないという意味で、「美味しくない」と言われることがあります。
官製プロジェクト
ワインは地域性が重要となるので、町おこしの一環、地域創生プロジェクトとして、ワイン生産が始まることがあります。
ところが往々にして、こういうプロジェクトは、消費者不在のまま、作ることだけが目的となり、誰も何の責任も取らないということが起きがちです。
結果、美味しくないという評判のワインが、改善が図られないまま、ただ作り続けられるという事態が起きます。
日本ワインは薄い?
一般的に日本ワインは「薄い」と評されることが多いです。これは、日本特有の気候と土壌が生み出すブドウの特性によるものです。日本のブドウは、欧州産のものと比較して酸味が強く、これがワインに「薄さ」をもたらすとされています。
日本のブドウは、特に夏の高温と湿度により、酸味が強くなる傾向があります。
また、日本の土壌は、火山性の影響により鉱物分が豊富で、これがブドウの味わいに影響を与えます。これらの鉱物分は、ワインに独特の「ミネラル感」をもたらし、これが日本ワインの「薄さ」につながっています。
例えば、日本ワインを代表する白ワインの「甲州」の味を一言で表すと、「薄い」以外ないでしょう。海外ワインの、コクや力強さを期待していると、拍子抜けしていしまいます。
また、赤ワインを代表する「マスカット・ベーリーA」は、軽やかで甘く、フルーティーな味わいが特徴です。これも果実味やタンニン感の重い味わいを期待していると、物足りないと感じてしまうでしょう。
しかし、この「薄さ」は必ずしも品質の低さを示すものではなく、日本ワイン独特の風味として捉えることができます。
日本料理を想像していただくと良いと思います。やはり日本ワインは、刺し身や煮物など、日本料理と相性が良いものです。
日本ワインの世界評価
「美味しくない」と言われてきた日本ワインではありますが、近年、世界的評価が顕著に高まっています。
特に、2018年には、世界的に権威あるワインのコンテスト「デカンタ・ワールド・ワイン・アワード」で、日本ワインが金賞を受賞しました。この受賞は、日本ワインの品質が世界基準を満たし、それを超えるレベルに達していることを示しています。
さらに、国際的なワイン評価会である「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」でも、日本ワインは高い評価を得ています。この評価会では、世界中から集まったワインが厳しい審査を受けます。その中で日本ワインが高評価を得たことは、その品質と独自性が国際的に認められている証と言えるでしょう。
日本ワインの歴史はまだ新しいですが、確かな品質向上と、国際的評価の高まりが起きています。
日本ワインの当たり年
ワインの品質は、その年の気候条件に大きく影響を受けるため、特に優れたヴィンテージ(年)が存在します。いわゆるワインの「当たり年」です。
日本ワインの当たり年は、1992年、2002年、2012年と言われています。
日本ワインを試すならば、まずはこの年から当たってみるのはいかがでしょうか。
まとめ 日本ワインが美味しくない理由
記事の内容をまとめます。
- 日本ワインと国産ワインの違いは、使用されるブドウの原産地にあり、日本ワインは日本国内で栽培されたブドウを100%使用して醸造されたワインのみを指す
- 日本ワインの価格は、生産コストの関係で、一般的に高くなる
- 日本ワインの特徴としては、繊細でフルーティーな味わいが挙げられるが、「薄い」と評されることも多い
- 日本ワインの風味は独特で、ヨーロッパやアメリカのワインと比較すると違うため、美味しくないと感じることがある
- 日本ワインは一般的に高価なため、その価格とのバランスから期待した品質を満たさないと感じることがある
- 日本ワインのペアリングが未開発で、相性の良くない食事と一緒に飲むことで美味しくないと感じることがある
- ワイン生産が町おこしの一環として始まることがあり、消費者不在のまま美味しくないワインが作り続けられることがある
- 近年、日本ワインの評価は、世界的に高まっている