ワインに興味がなくても「ボジョレー・ヌーヴォー」の名前は聞いたことがあるという人も多いと思います。なぜこんなにボジョレー・ヌーヴォーは有名なのでしょうか。そして有名である一方、「まずい」という声もよく聞きます。なぜそんなに「まずい」ワインが人気なのでしょうか。それには明確な理由がありますし、単純に「まずい」と言うだけではなく、ボジョレー・ヌーヴォーならではの楽しみ方もあります。この記事では、ボジョレー・ヌーヴォーとは何なのか、なぜまずいと言われるのかを、詳しく解説いたします。
ポイント
- ボジョレー・ヌーヴォーとは何か
- ボジョレー・ヌーヴォーの特徴
- ボジョレー・ヌーヴォーはなぜ有名なのか
- ボジョレー・ヌーヴォーはなぜまずいと言われるのか
ボジョレー・ヌーヴォーとは?まずいのになぜ人気?
ボジョレー・ヌーヴォーとは何かと、なぜ人気なのかについて、その歴史や特徴について解説いたします。
ボジョレー・ヌーヴォーとは
ボジョレー・ヌーヴォーとは、フランスのブルゴーニュ地方ボジョレー地区で作られる、その年に収穫したブドウで作る新酒のワインのことです。
ボジョレーは地名です。パリの東南に位置し、花崗岩質・切開粘土層の土壌で、日当たりがよく、ワイン造りに適した土地です。
ヌーヴォーとは、日本語にすると「新酒」という意味です。
ですから、「ボジョレー・ヌーヴォー」とは「ボジョレー地区の新酒」という意味となりますが、何でもいいという訳ではなく、ボジョレー・ヌーヴォーを名乗るには、細かなルールがあります。
まず使用するブドウは、「ガメイ」という黒ブドウに限られます。したがってボジョレー・ヌーヴォーは赤ワインまたはロゼワインのみで、白ワインはありません。
また製法も独特です。通常ワインは、粉砕したブドウを発酵させますが、ボジョレー・ヌーヴォーでは房のままタンクに入れます。タンクの中に二酸化炭素を充満させることで圧力をかけ、ブドウが重みで潰れ、自然に発酵していきます。これを「マセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬法)」といいます。炭酸ガスを注入する方法と、ブドウが発酵した際に発生する炭酸ガスを使用する方法があります。後者を特に「マセラシオン・ナチュレル」といいます。
そして、ブドウの収穫から、約2ヶ月という短期間で出荷されます。
ボジョレー・ヌーヴォーが解禁される、11月の第三木曜日は、世界中のワイン愛好家が心待ちにする、特別な日となっています。
ボジョレー・ヌーヴォーの文化的な意味
ボジョレー・ヌーヴォーは、単なるワイン以上の、特別な意味を持っています。
もともとは、ブドウの収穫を祝うためのワインでした。成熟の速いガメイをひと足早く収穫し、ワインでワインを祝っていたのです。
今でも、その年の初ワインという意味を持っています。今年のワインはどんな出来か、それをボジョレー・ヌーヴォーを通して予測し、楽しんでいるのです。ボジョレー・ヌーヴォーには、その年のワインの試飲という役割があります。
ボジョレー・ヌーヴォーは、フランスのワイン文化の象徴とも言えます。ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日に合わせ、フランスだけでなく、世界中で祭りやイベントが開かれています。
ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日
ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日は、毎年11月の第三木曜日に設定されていますが、それには紆余曲折の歴史があります。
上記のように、ボジョレー・ヌーヴォーはブドウの収穫を祝うためのワインとして、1800年頃から作られていました。
しかし1951年にフランス政府が、ワインの生産量をコントロールするため、12月15日までは出荷してはいけないという制限をかけます。
12月15日では、ブドウの収穫を祝うのには、ちょっと遅すぎます。そこで制限を緩和するように政府に働きかけたところ、これが認められました。ところが今度は、より早くヌーヴォーを出荷するかの、出荷競争が起こってしまいます。これにより、ワインの質がどんどん下がっていきました。
フランス政府は1967年に、12月15日ではなく、11月15日を解禁日にするという制限をかけます。
しかし11月15日が、土日や祝日に当たる場合もあるため、1985年には11月の第三木曜日を解禁日にすると、定められました。
ボジョレー・ヌーヴォーはなぜ人気?
ボジョレー・ヌーヴォーの人気の秘密は、味よりも、その文化的な側面が強いです。今年最初のワインという特別感が、お祭り気分を盛り上げるのです。
毎年11月の第三木曜日をもって、その年のワイン文化が始まると言えます。今年はどんなワインが出来たのか、ワイン愛好家にとっては、とてもワクワクして、待ちきれないでしょう。
またワインビジネスとして、ワインを宣伝するのに丁度よいアイテムであるという側面もあります。毎年キャッチコピーが付けられると、メディアが面白がって取り上げるので、良い宣伝となります。ワインメーカーやレストランにとっても、売りやすい商品です。そのため、ボジョレー・ヌーヴォー本来の意味よりも、ビジネス的な意味が強くなり、行き過ぎたプロモーションの結果、必要以上に人気になったという面は否めないでしょう。
ボジョレー・ヌーヴォーは日本だけで人気?
ボジョレー・ヌーヴォーは、もちろんフランスのワインですが、その消費量は日本が世界一でした。ピーク時には、ボジョレー・ヌーヴォーの半数が日本向けに輸出されていました。現在ピークは過ぎていますが、それでも4分の1程度は日本向けとなっています。
ではフランスではどうかというと、秋の収穫祭イベントの一つであり、唯一のものでもないので、熱狂的な盛り上がりはありません。またそもそも、ボジョレー・ヌーヴォーは未完成品であり、「ワイン」ではないという認識があります。
ではなぜ日本でこれほど人気になったかというと、ブームになったからというしかありません。
ボジョレー・ヌーヴォーは、ワイン愛好家にとっては特別な意味を持ちますが、普段ワインを飲まない層がボジョレー・ヌーヴォーについて語ることは、ナンセンスと言えます。
それが、1980年代のバブル景気の頃、日本にワイン通が急増しました。そこでワインメーカーやレストランが一斉にボジョレー・ヌーヴォーのイベントを仕掛け、ブームとなったのです。
また、もともと日本には「初物」を祝う文化があり、マグロなどにとんでもない値段がつくことはよく知られています。初物のワインということが、日本人のお祭り気質に合ったという面もあります。
また地理的に、日付変更線の関係で、フランスよりも早く解禁日が訪れるため、よりお祭り感を盛り上げやすいという面もありました。
現在は、日本にもワイン文化が根付いてきて、ボジョレー・ヌーヴォーの本来の意味も伝わってきたため、ブームは落ち着いてきています。
ボジョレー・ヌーヴォーとボジョレー・ヌーボーどちらが正しい?
ボジョレー・ヌーヴォーは、フランス語で「Beaujolais Nouveau」となります。
日本では「ヌーボー」だったり「ヌーヴォー」だったり、表記がいろいろブレていますが、どちらが正しいというものでもありません。あえて正しいのを挙げろと言われれば、フランス語の「Beaujolais Nouveau」が正しいとなります。
なぜこんなに表記がブレているかというと、ワインメーカーが別々の表記を使っているからです。
メーカー | 表記 |
---|---|
キリン | ボージョレ・ヌーヴォー |
サッポロ | ボージョレ・ヌーボー |
サントリー | ボジョレー・ヌーヴォー |
アサヒ | ボージョレ・ヌーヴォ |
見事に、一社も同じ表記を使っていません。さすがにこれは、わざとやっているのではないでしょうか。他社と被らないように、ずらしているとしか思えません。
何のためにそうしているのかは分かりませんが、消費者としては無駄な混乱になるだけなので、統一してほしいところです。
このサイトでは「ボジョレー・ヌーヴォー」としており、サントリーと同じとなっていますが、一番よく使われる表記に合わせているだけで、それ以上の意図はありません。
ボジョレー・ヌーヴォーの品種
ボジョレー・ヌーヴォーは、ガメイという品種の黒ブドウから作られます。
ボジョレー地方で作られる赤ワインは、ほぼ全てガメイです。逆に、ボジョレー以外の地域でも多少は栽培されていますが、主流にはなっていません。
ガメイは、ブルゴーニュ地方が原産で、涼しい地域での栽培に向いています。熟すのが早いという特徴があり、秋雨が来る前に収穫できます。
ガメイは、果皮が薄く、色素やタンニンが抽出される量が少ないため、淡い色で渋みの少ないワインとなります。スミレの花や、ベリー系の香りが特徴的で、とても「軽い」ため、ワイン初心者に向いています。一方、ワイン好きは物足りないと感じるかもしれません。これがボジョレー・ヌーヴォーが「まずい」と言われる、一番の原因でもあります。
フレッシュで軽やかな味わいがありますので、赤ワインではありますが、冷やして飲むのも悪くないです。
また、しっかりとした料理ではなく、ハムやソーセージのような軽食によく合います。
ボジョレー・ヌーヴォーの白ってあるの?
ボジョレー・ヌーヴォーを名乗るには、ガメイ種を使うという決まりがあるため、ボジョレー・ヌーヴォーに白ワインは存在しません。
しかし、ボジョレー地区で作られた白ワインは存在します。ボジョレー地区では、ガメイ種が大半ですが、一部白ブドウのシャルドネも作られています。しかしながら、ボジョレー地区での白ワインの生産はとても少ないため、日本の市場に出回ることはほとんどありません。
代わりに、ボジョレー地区の隣にあるマコン地区で生産された「マコン・ヴィラージュ・ヌーヴォー」はいかがでしょうか。こちらはシャルドネ100%の白ワインで、ボジョレー・ヌーヴォーと同じく新酒です。ボジョレー・ヌーヴォーとは姉妹関係のようなもので、日本でも、比較的手に入りやすいです。新酒らしい、フレッシュな味わいが特徴です。
ヌーヴォーとプリムールの違い
「ヌーヴォー」はフランス語で「新しい」という意味で、ボジョレー・ヌーヴォーはボジョレー地区の新酒を意味します。その年のワインの品質を知るための、試飲という側面もあります。ボジョレー・ヌーヴォーは、毎年11月の第三木曜日に解禁されます。
「プリムール」は「初めて」という意味です。これは、樽で熟成中のワインを、一部先行販売する、ボルドー地方で見られるシステムです。プリメールは、ブドウを収穫した翌年の4月に解禁されます。この時点で、まだ未完成のワインを、通常よりも安く購入することができます。つまりワインの先物取引です。実際にワインがリリースされるのは、プリメールから2~3年後で、飲まれるのはさらに先となります。
ボジョレー・ヌーヴォーは、その年に収穫されたブドウで作られた早熟ワインですが、プリメールは、数年後に販売される熟成中ワインの先行購入という違いがあります。
ボジョレー・ヌーヴォーは本当にまずいのか?
ボジョレー・ヌーヴォーは人気である一方、まずいと言われることもあります。その理由と、味の特徴を解説いたします。
ボジョレー・ヌーヴォーがまずい理由
ボジョレー・ヌーヴォーは「まずい」とよく言われますが、ある意味では当然とも言えます。そもそもボジョレー・ヌーヴォーは、「味」を追求したワインではないからです。
元々は、秋のブドウの収穫期に、
「おい、せっかくブドウを収穫したのに、今年のブドウで作ったワインを飲むのはいつになるんだ!」
「だったら、今年のブドウを使って、即席のワイン作ろう」
というところが、ボジョレー・ヌーヴォーの始まりとされています。つまり、地元の人が収穫を祝うための即席ワインであって、ワインとしては未完成品なんですね。ですから、おいしくなくて当然と言えます。
そのおいしくない未完成ワインが、なぜ市場に出回るようになったかというと、ボルドー地域への対抗という説があります。
ボルドーワインが有名になる一方で、ボジョレーワインは全然人気になりません。しかしボジョレーには、ボルドーにはない「ヌーヴォー」を作っているという特徴がありました。
そこで、フランスのワイン商人である「ジョルジュ・デュブッフ」氏が、1970年頃から「今年の初物ワイン」というプロモーションを仕掛けたところ、フランスで大ヒットしました。1980年代にはアメリカ、1990年代には日本でボジョレー・ヌーヴォーの人気が高まります。
しかし元よりおいしいワインではなかったので、徐々に人気は落ち着いたというところになります。
ボジョレー・ヌーヴォーはどんな味?
ボジョレー・ヌーヴォーの特徴は、ブドウのフレッシュさとフルーティーさです。ブドウの収穫からわずか数週間でリリースされるため、その若々しさが最大の特徴です。
ラズベリーやストロベリーのような、ベリー系の風味が特に感じられます。またタンニンが少ないため、口当たりがよく、飲みやすいです。
このため、ワイン初心者には向いているとされています。
一方、ワイン特有の複雑さや深みがないため、「軽い」「シンプルすぎる」「まずい」という評価もよく聞きます。
またこの軽さから、通常の赤ワインとよくマッチングされる、こってりとした肉料理などには合いません。軽いワインに合うのは、やはり軽いハムや、マイルドなチーズなどとなります。
日本でボジョレー・ヌーヴォーが人気なのは、日本人があっさりした料理を好むからという理由もあるかもしれません。
そもそも、濃厚で複雑な味のワインがおいしいワインだというのは、著名なワイン評論家がそう言っていたからであり、ワイン後進国の日本はただそれに従っていただけとも言えます。
その日本で、ボジョレー・ヌーヴォーのような軽いワインが人気になったというのは、単なるマーケティングの問題だけでなく、本当に日本人の味覚に合っていたのかもしれません。日本だけでなく、世界的な健康志向の高まりで、シンプルな料理が好まれるようになった結果、ボジョレー・ヌーヴォーのようなワインも再評価されてきています。
ワインとはこういうものだという先入観を抜きにして、あらためてボジョレー・ヌーヴォーが「まずい」のか、試してみるのもいいのではないでしょうか。
まとめ ボジョレー・ヌーヴォーがまずい理由
記事の内容をまとめます。
- ボジョレー・ヌーヴォーとは、フランスのボジョレー地区で作られる、新酒のワインのこと
- ボジョレー・ヌーヴォーは、ガメイというブドウから作られる
- ボジョレー・ヌーヴォーは、収穫から出荷まで約2ヶ月という短期間で作られる
- ボジョレー・ヌーヴォーは、毎年11月の第三木曜日に解禁される
- ボジョレー・ヌーヴォーは、元々はその年のワインの収穫を祝うためのお酒だった
- ボジョレー・ヌーヴォーは、地元の人が楽しむためのワインだったが、初物として宣伝したところ、世界中で大ヒットとなった
- ボジョレー・ヌーヴォーは、日本ではバブル経済と共に人気となり、一時は出荷数の半分を占めた
- ボジョレー・ヌーヴォーの味は、渋みが少なく、フルーティーさとフレッシュさが特徴
- ボジョレー・ヌーヴォーは「軽い」ので、複雑さや深みがなく、「まずい」と言われることもある
- ボジョレー・ヌーヴォーは、あっさりとした料理に合う