高級時計として知られるロレックスですが、アンティークと呼ばれる古いモデルは、比較的安価で販売されています。美術品であれば、古いほど高価になるのが一般的ですが、なぜロレックスは安くなるのでしょうか。この記事では、そもそもアンティークとは何か、ロレックスのアンティークが安くなる理由、アンティークを購入・使用する際の注意点について解説しています。
ポイント
- ロレックスのアンティークとは
- ロレックスのアンティークが安い理由
- ロレックスのアンティークの注意点
- 50年前のロレックスに価値はあるか
ロレックスは高いのに、アンティークはなぜ安い?
ロレックスの価格について、アンティーク品が驚くほど安い値段で売られていることに驚いた人もいるかもしれません。ここでは、ロレックスのアンティークとは何か、アンティークとヴィンテージの違い、アンティークが安い理由についてご説明いたします。
ロレックスのアンティークとは
ロレックスのアンティークとは、簡単に言えば、ロレックスの古いモデルのことです。
一般的には、1960年代以前に製造された時計のことを指します。
型番(リファレンスナンバー)が4桁の数字であることからも分かります。現行の製品は、6桁の数+アルファベットとなっています。
実用的な腕時計を目指したロレックス
ロレックスは1905年の創業以来、様々な技術革新により、腕時計の普及に努めてきました。
当時は懐中時計が主流であり、腕時計は信頼性がないものとして見られていました。それを、日常的に使えるような品質まで高めたのは、ロレックスの貢献が大きいとされています。
ロレックスは、ダイビング・登山・探検など、過酷な環境で使用できる時計を目指し、耐久性や信頼性を高めていきます。今で言えば、G-Shockのようなものだったと言えます。
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1970年代のクォーツ危機
状況が一変したのは、1970年代です。
1969年にセイコーが、世界初のクォーツ式腕時計である「クオーツアストロン」を発表します。さらに特許を公開し、クォーツ式時計の普及に務めました。
また、1972年にアメリカのハミルトン社が、世界初のデジタル時計「パルサー」を発表します。
これにより、実用性という面で、機械式時計は一気に時代遅れとなります。スイスの時計産業は壊滅的な影響を受け、多くの時計メーカーが倒産しました。
高級機械式時計のブランド化
1980年代に入ると、スイスは低価格でファッション性の高い「スウォッチ」で復活する一方、業界の再編成を行います。
その中で、高品質な機械式時計を作り続けることで、実用性ではなくロマンとしての高級時計という地位を確立します。
近年では、スマートウォッチに押されながらも、販売金額ベースは世界で大きなシェアを誇っています。
実用性のあるアンティーク時計
ロレックスのアンティークは、1940~1960年代の、実用性を追い求めていたた時代の製品ということになります。
1940年代以前については、そもそも入手することが難しいというのもありますが、経年劣化が著しく、交換部品もないため、もはや動かすことができないということが多いです。
機械式時計は動くからこそロマンがあります。部品を新たに作ることもできますが、そうするとオリジナルからかけ離れていくので、アンティークと言えるのかという問題になってきます。
アンティークとヴィンテージの違い
「アンティーク(antique)」と同じような意味の言葉として、「ヴィンテージ(vintage)」があります。その違いは何でしょうか。
ヴィンテージは20~30年前、アンティークはそれより前という使われ方がすることもありますが、明確な定義はありません。
これは、そもそもヴィンテージの意味が誤って広まったために起きている問題です。
アンティークとは
「アンティーク(antique)」はフランス語で、古いもの、時間の経過によって価値があるもの、またはその模倣品を指す言葉です。日本語では「骨董品」と言います。
古代ギリシア語の「antiqvos」、ラテン語の「antiquus」に由来すると考えられています。これは「古い」「昔の」を意味する言葉です。
アメリカの通商関税法で、「アンティークとは製造された時点から100年を経過したもの」と定義されたため、一般的には100年以上前の古い製品を指すことが多いです。
ただし腕時計の世界では、だいたい50年以上前の製品のことを指しています。
ヴィンテージとは
「ヴィンテージ(vintage)」はフランス語で、ぶどうの収穫を意味する言葉です。また、ぶどうの収穫年のことも指します。
ラテン語の「vinum(ワイン)」「demere(取り除く)」が「vindemia」となり、中世フランス語の「vendage」へと変化し、「vintage」になったと考えられています。
ワインの品質は、ぶどうの出来によって決まりますので、その年の天候次第となります。そのため、特定のヴィンテージ(収穫年)のワインが、「当たり年」ということで価値を持つことになります。
つまり元々「ヴィンテージ」には「何年製ワイン」という意味しかありません。それが他のアルコールや、全然別の製品にも「ヴィンテージ」が使われるようになった結果、「古くて価値がある」という意味も持つようになりました。
またワインは、古ければ美味しいというわけではありません。品種によって飲み頃が異なり、長いものでも20~30年とされています。それより古くなると、美味しいかどうか、という世界ではなくなってきます。
アンティークが100年以上前なのに対し、ヴィンテージが20~30年前というのは、ワインの特性も影響しているのかもしれません。
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ロレックスのアンティークが安い理由
一般的に、ロレックスのアンティークは、現行品よりも安価であることが多いです。さらに言ってしまえば、人気がないために安くなっていると考えることもできます。
その理由を見てみましょう。
そもそもロレックスが安い
ロレックスは高級時計の代名詞として知られていますが、その価格は、高級時計の中では中程度と言えます。圧倒的な知名度と、手に入りやすい価格であることから、人気になっているとも言えます。
それでも、現行品を購入しようとすると100万円以上はするでしょう。
一方、アンティークのロレックスであれば、50万円以下で手に入れることも可能です。
コンディションが悪い
数十年前の機械式時計は、経年劣化が著しく、傷も多くついています。
時計は正確に動くことに意味があります。また、装飾品としての面もあります。
アンティークとは言え、時計としての本質を果たせないようでは、価値も低くなります。
純正パーツがない
通常ロレックスは、発売から30年間は交換用部品を保持しています。それ以前となると、修理しようにも部品がありません。
結果、どこかの誰かが部品を自作し、修理することになります。
そうやって、ツギハギだらけになっていくにつれ、オリジナルとしての価値は失われていきます。
メンテナンスできない
現行品のロレックスでも、数年に1回はオーバーホールすることが推奨されています。
アンティークでも同様か、それ以上のメンテナンスが必要となりますが、上記のように修理用部品も手に入らないため、修理を受け付けてくれる業者も限られます。
メンテナンスすることができず、動かなくなってしまえば、時計としての価値がなくなってしまいます。
資産価値がない
現状、ロレックスの時計は、投機目的で購入する方が多くいます。ロレックスの時計は、将来的に値上がりする可能性が高く、優秀な資産とみなせるからです。10年で2倍近くになる例もあります。
例えば300万円で購入して、3年ごとにメンテナンスで10万円かかったとしても、将来的に600万円で売れるかもしれません。
しかしアンティークを50万円で買ったとしても、売却価格がそれ以上になる可能性は、とても低いでしょう。メンテナンスの費用だけマイナスになっていくことになります。
オリジナルに近いアンティークであれば、十分に値上がりする可能性がありますが、なかなか素人には難しい世界です。
このため、ロレックスのアンティークは、投機対象としては見なされず、結果として値段も上がらないということになります。
アンティークロレックスでも、なぜ安い時と高い時があるのか
ロレックスのアンティークが安いとは言え、一般的な腕時計に比べればまだまだ高価です。また購入した時期によっては、値上がりしている可能性もあります。ここでは、ロレックスの価格の推移、日常使いする際の注意点、投資目的で購入する際の注意点、50年前のロレックスの価値について説明しています。
ロレックスは「昔は安かった」って本当?
ロレックスの時計は、昔は安かった、とよく言われます。しかし「昔」とはいつでしょうか。人によって指している時期と文脈が大きく異なります。
おそらく、次の3つの時期に分けることができるのではないかと思われます。それぞれについて解説します。
A:1905年~1970年
ロレックスは、1905年の創業から、クォーツ時計が登場する1970年代まで、高品質で実用性のある時計メーカーとして知られていました。
しかしそれは、低価格だったという意味ではありません。日本とスイスの物価の違いというのもありますが、現在の日本の感覚で言うと、数百万円する高級品だったようです。
B:1970年~2017年
クォーツ時計が登場すると、機械式時計のロレックスは、ラグジュアリー路線へと変更します。
しかし逆に、日本は高度経済成長期を経て、バブル期へと突入していきます。この頃の日本での値段は、10万~40万円ほどでした。
つまり決して安くはないが、大学生でも頑張れば買えるレベルです。初任給で買う人も多くいました。今で言えば、ちょっとしたブランドバッグくらいでしょうか。
C:2017年~
ロレックスの価格が高騰したのは、2017年以降と言われています。これには様々な要因が考えられます。
まず、時計が優秀な投資対象と見られるようになったということです。ロレックスのような高級時計は、購入時より値段が下がるということがあまりなく、倍以上の値段で売れることもあります。そのため、購入資金がある人にとっては、買ってもまったく損にならず、むしろプラスになるのです。
また、社会情勢が不安定になったことで、さらに時計に投資資金が集まるようになりました。「金」が値上がりするのと同じ仕組みです。
中国や中東の富裕層で人気になったという影響もあります。
バイヤーは、必死になってロレックス製品を買い集めることになります。ロレックスは、生産量をコントロールして希少性を維持することで、競争を煽り、さらなる高騰化を招きます。
一方日本は、長く不況が続きます。世界的にはインフレで賃金が上がり続けるのに対し、日本ではデフレとなっています。そのため、物価の差が広がっていきます。
結果として、現在のロレックスは数百万円以上することになり、購入できる人を選ぶ時計となりました。
まとめ
「ロレックスは昔は安かった」というのは、Bの時代に買った人が、現在のCの値段を見て、「自分が若い時は、もっと安かったんだけどな~」と言っている状況と思われます。
「ロレックスのアンティークは安い」とは、別の文脈で使われています。
ロレックスのアンティークを購入する際の注意点
ロレックスのアンティークを購入するならば、「日常使い」するのか「投資目的」にするのかによって、大きく変わってきます。それぞれの注意点についてご紹介します。
日常使い
ロレックスの時計は、防水性や堅牢性で知られていますが、アンティークに期待はしないようにしましょう。それは、経年劣化していることと、今ほど性能は良くなかった、という2つの面があります。
乱暴な使い方をしないことで長持ちさせることはできますが、太陽光・湿度・温度変化などで、劣化することは避けられません。日常使いする以上、劣化は受け入れる必要があります。
また、正確な時刻も期待できません。1時間ズレるようであれば時計と言えないでしょうが、数分くらいのズレは考慮しておきましょう。
時間のズレを小さくするためにも、ゼンマイは定期的に巻くようにします。
また、3年に1度はオーバーホールすることが推奨されています。部品を交換すると価値は下がることになりますが、日常使いするならば、致し方ありません。
投資目的
まず前提として、投資目的としてロレックスを購入する場合、現行品よりアンティークの方が難易度が上がります。
資産価値を保つならば、オリジナルのパーツがどれだけ残っているかが重要となります。特に、針と文字盤が、オリジナルかどうかをよく確認しましょう。これは、夜光塗料が現行品と変わっているためです。
またブレスレットは消耗品であり、傷や劣化は避けられません。そのため、オリジナルのブレスレットが、よい状態で残っていることは、極めて稀です。当然値段も高くなります。
箱などの付属品や、保証書があれば、必ず保管しておきましょう。
時計として使うことはせずに、高温多湿や直射日光を避け、大切に保管しておくようにします。
使用していない場合でも、5年に1度はオーバーホールが必要となります。ただしオーバーホールをすると、勝手に部品を交換されて、資産価値が下がってしまうことがあります。そのため、依頼先は慎重に選ぶ必要がありますが、受け付けてくれるところが見つからない場合もあるでしょう。
ですから購入の時点で、このモデルは定期的なメンテナンスをすることが可能かどうかを、見極めておくことが必要です。
50年前のロレックスに価値はある?
50年前というと、1970年代製造のモデルということになりますが、価値があるかどうかは、状態と、どれだけ純正部品が残っているかによります。
「デイトナ」「サブマリーナ」「GMTマスター」「エクスプローラー」等の人気モデルで、リファレンスナンバーが4桁(Ref.6263、等)のものは、高く売却できる可能性があります。
全て純正部品であれば、数百万円ともなる可能性はありますが、それは極めて稀な例でしょう。部品が交換されていたとしても、状態が良ければ、数万~20万円程度にはなる可能性があります。
アンティークの買取を依頼するならば、信用できる業者を慎重に選ぶ必要があります。
少しでも価値を高めるために、オーバーホールをした方がいいと考えるかもしれませんが、それは逆効果になりかねません。オーバーホールをすると、純正部品を交換されたり、不用意に削られたりして、価値を下げてしまうことがあります。専門業者であれば、壊れていたとしても、それを前提としての査定をしてくれます。
また、市場価格は常に変動しています。一般的には、円安の時の方が、買取価格は高くなります。
まとめ ロレックスのアンティークはなぜ安いか
記事の内容をまとめます。
- ロレックスのアンティークは、1960年代以前の、型番が4桁のものを指す
- 1940年代以前のロレックスが流通することは少ない
- アンティークは日本語で骨董品を意味する
- ヴィンテージは、元々、ワインの収穫を意味する言葉
- ロレックスは、実用性のある時計を目指していたが、1970年代のクォーツ時計の登場以降、高級路線に変更した
- ロレックスはの時計は、購入時より値上がりすることが多く、投資対象として見られている
- ロレックスのアンティークは、純正の交換部品がないために、オリジナルを保ったまま修理することができない
- 機械式時計は定期的なメンテナンスが必要となるが、その度に純正部品が失われ、価値が下がっていく
- 純正部品だけのアンティークであれば数百万~数千万円の価値があるが、一般的には数十万円で流通している
- 使用目的でアンティークを所有するならば、劣化は避けられないので、価値は低下する
- 投資目的でアンティークを所有するならば、なるべくオリジナルに近い状態であることと、定期的なメンテナンスが重要となる