レストランで「ワインのテイスティングをお願いします」と言われ、「うーん、バラのような芳醇な香りで、コクがあり……」などというやり取りを見たことがあるかもしれません。これは、テイスティングの意味を完全に捉え違えたやり取りです。レストランでのテイスティングは、ワインの品評ではなく、劣化していないかの確認です。そこには中世ヨーロッパから続く、「ホスト」と「ゲスト」の概念があります。ホストとゲストを明確にすることで、よりレストランでの食事を楽しめるようになるでしょう。
ポイント
- ワインのテイスティングとは
- テイスティングの方法
- テイスティングのマナー
- ワインのテイスティングを断る場合
ワインのテイスティングを断ることはできる?

ワインのテイスティングの意味
ワインのテイスティングにはいくつかの意味があります。
1つは、ワインの風味を評価し、コメントをすることです。ソムリエがよくやっていることですね。また、試飲という意味で使われることもあります。
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もう1つは、「ホストテイスティング」と言われるもので、レストランにおいて、ワインを提供する前にその品質に問題がないかを確認することです。
ホストテイスティングの前提として、「ホスト」と「ゲスト」の存在があります。食事を招待した側がホストで、招待された側がゲストです。元をたどれば、ヨーロッパの貴族の風習に習ったものです。つまりホストテイスティングは、基本的には格式高いレストランでのみ行われます。友達同士で気軽に入るようなお店では、あまり見かけないでしょう。
ホストには、大切なゲストにワインを振る舞う前に、そのワインが安全かどうか、品質が劣化していないかを確認する責任があります。
特にワインは、コルクが原因となって、「ブショネ」という異臭がすることがあります。ブショネが発生する確率は2~5%近くありますので、そのボトルに当たる可能性は結構あります。最低でも、ブショネのワインは避けなければいけません。
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その他、様々な要因でワインは劣化しますので、このワインをゲストに提供してもよいのかを判断するのが、ホストテイスティングの意味です。
よくある誤解として、好みの味かどうかを確認しているのではありません。好き嫌いは関係なく、劣化しているかどうかのみの確認です。また、ソムリエのように「青りんごのような爽やかな風味があります」等のコメントを求められている訳ではありません。
ワインのテイスティングのやり方
ここでは、ホストテイスティングのやり方について解説します。ただし、ほとんど儀式化していますので、そんなに気にする必要はありません。
まず、ソムリエがテーブルにボトルを持ってきますので、ラベルを見て、注文したものと間違いがないか確認をしましょう。
この時に、「テイスティングをしますか?」と聞かれるかもしれません。テイスティングをしない場合は「必要ありません。お任せします」と伝えましょう。
テイスティングをする場合は、ソムリエが抜栓し、ホストのグラスに少しワインを注ぎます。
ホストは、グラスを持ち上げ、まず色を確認します。異物が混在していないかの確認の意味もあります。
次に、鼻にグラスを近づけ、香りを確認します。カビや化学的な香りがしないか見てみましょう。
最後に、口に含んで、味わいを確認します。明らかな異常がなければ、そのまま飲み込みます。
問題がなければソムリエに「大丈夫です」「問題ありません」「お願いします」等と伝えます。そうするとソムリエは、ゲストの方からワインを注いていきます。
あまりないかと思いますが、本当に異常があった場合は、ソムリエに「確認してもらえますか」と伝えましょう。ソムリエが確認して、異常があると判断された場合は、ボトルの交換となります。
ただし、好みの問題ではないことには注意しましょう。特にヴィンテージワインの風味は複雑なので、正常なのか異常なのかを判断することは難しくなります。
基本的にソムリエは、ボトルやコルクの状態、開けた時の香りでワインの異常を判断できます。ホストテイスティングの前にテイスティングは終わっていると言えますので、ホストがそこまで真剣になる必要もありません。
食事の目的はゲストと楽しい時間を過ごすことであり、ホストテイスティングもそのためのものです。ホストであるという自覚を持ち、その場の空気を悪くすることがないように、柔軟に対応するようにしましょう。
ワインのテイスティングをする人は?
ホストテイスティングは、その名の通り「ホスト」が行います。ホストとは、食事会を主催し、ゲストを招待した人のことです。
また基本的に、ワインを選び注文するのは、ホストの役割です。ホスト=ワインを注文する人です。誰でも注文できる居酒屋スタイルのお店であれば、ワインテイスティングは存在しないでしょう。
中世ヨーロッパの貴族は、毒殺されることが多く、テイスティングはその毒見をすることがルーツであるという説があります。
安全な食事を提供することが、ホストの努めとなります。現代においては、毒を入れられるなんていうことはほぼありませんが、食事の安全に責任を持つというのも、面倒なことではなく、逆にホストの楽しみとなるのではないでしょうか。
ワインのテイスティングを断るには?
テイスティングはホストの責任とは言え、ワインに詳しくもないし、面倒なこともあるかと思います。
その場合は、ソムリエに「テイスティングはお任せします」と伝えましょう。先に書いたように、ワインの劣化はすでにソムリエが確認済みなので、断ることは特に不自然なことではありません。むしろよくあることと言えます。
注意が必要なのは、「私はワインに詳しくないので、◯◯さんお願いできますか」とゲストにテイスティングを依頼してしまうことです。テイスティングは、ワインの安全性、品質に問題がないかを確認する行為なので、それをゲストにお願いしてしまうことは、マナー違反となります。
テイスティングを断る場合は、ゲストではなく、ソムリエに任せるようにしましょう。
ワインのテイスティングは飲み干すのがマナー?
テイスティングでは、グラスに少しだけ注がれますが、アルコールが苦手な方は、それでも多いと感じることがあるかもしれません。
テイスティングは異常がないか見るだけなので、飲み干す必要はなく、一口だけで大丈夫です。儀式でしかないので、飲まずに見た目だけの確認でも大丈夫です。
むしろ、一気に飲み干してしまうことは、異常を確認するという目的からは逸脱しています。
ワインのテイスティングは吐き出すのがマナー?
ワインのテイスティングは吐き出すのがマナーというのを聞いたことがあるかもしれません。
それは、何十種類ものワインを一度に確認する試飲会場での話です。ワインの試飲会場には、吐き出す用の容器「吐器(spittoon)」も用意されています。ワインをたくさん飲むと酔ってしまい、味も分からなくなってしまいます。また、味覚は舌にしかなく、飲まずに吐き出すことで、より鮮明に味が分かるとも言われています。
レストランでのホストテイスティングは、もちろん吐き出すようなことはせず、飲み込むようにしましょう。
テイスティングしたワインを断ることはできる?

ワインの交換をお願いしてもいいの?
ホストテイスティングの目的は、ワインが劣化していないか、その品質を確認することです。
もし明らかに異常だと思った場合は、「劣化しているので交換してください」と言うのではなく、「確認していただけますか?」「このワインはこういう風味ですか?」とソムリエに尋ねるようにしましょう。
本当に劣化しているかどうかは、ワインの専門家であるソムリエが確かめます。そこで異常が見つかれば、ボトルを交換してくれるでしょう。ただほとんどの場合、ソムリエはホストテイスティングを依頼する前に自分で確認していますので、ホストテイスティングで異常が見つかるということはありません。
しかしながら、ソムリエが正常だと言ったとしても、自分は問題があると感じたものを、ゲストに提供するのは気が引けるかもしれません。また、品質ではなく、風味が好みでなかったということもあるかと思います。
そのような場合でも、ボトルの交換を依頼することはできます。ただし、品質に問題はなかったということなので、追加注文という形になります。
ワインを交換する際の料金は?
本当にワインに異常が見つかった場合は、追加料金は必要ありません。店側の負担で、新しいボトルを用意してくれます。
風味が好みでなかったという理由で交換を依頼した場合は、当然、追加の料金が必要となります。
ソムリエと揉めても仕方がありませんので、なるべくスマートに済ませたいところです。
ワインを断る際のサイン
ワインを断る際は、人差し指と中指をグラスの縁に添えるのがマナー、という話を聞いたことがあるかもしれません。
それはテイスティングではなく、食事中に、ソムリエがワインを追加で注ごうとした時、「もう結構です」という意思表示をするためのものです。
テイスティングで問題があった場合は、ハンドジェスチャーではなく、ソムリエに口頭で伝えるようにしましょう。
ちなみに、ホストテイスティングがあるような高級レストランでは、自分でワインを注ぐことはマナー違反となります。グラスのワインが減ってきたら、ソムリエが注いでくれますので、それを待つようにしましょう。もう追加で必要なくなったら、上記のように、人差し指と中指を揃えて、グラスの縁に添えれば大丈夫です。ソムリエが注ごうとしている時、手のひらを広げてグラスの上にかざすのは、マナー違反というより、単純に危険なのでやめましょう。
まとめ ワインのテイスティングを断ることはできる?
記事の内容をまとめます。
- ワインのテイスティングには、ソムリエがワインの風味を評価するテイスティングと、レストランでワインの品質を確認するホストテイスティングがある
- ホストテイスティングは、ゲストを招待したホストが行う
- ソムリエはホストにテイスティングを依頼する前に、自分で確認済みなので、ホストテイスティングは儀式でしかない
- ホストテイスティングは、ワインの劣化を確認するものであり、風味の好みを判断するものではない
- ホストテイスティングを断って、ソムリエに任せることもできる
- ホストテイスティングは、形だけの確認でも問題ない
- ワインの品質に問題があった場合は、交換してもらえる
- ワインの品質に問題がなく、風味の好みで交換を依頼した場合は、追加料金が発生する