タイメックスの歴史と、ダサいと言う評判が的外れな理由
タイメックスの概要と、ブランドの歴史、人気モデルについて解説します。またそこから導かれるブランド哲学と、ダサいという評判が当てはまらない理由について解説します。
タイメックスとは
「タイメックス(Timex)」は、1854年にアメリカのコネチカット州の「ウォーターベリー(Waterbury)」で創業された時計ブランドです。
創業時の社名は「ウォーターベリー・クロック・カンパニー(Waterbury Clock Company)」でした。
その後、1880年に設立された関連会社の「ウォーターベリー・ウォッチ・カンパニー(Waterbury Clock Company)」や、1881年に設立された通販会社の「インガーソル(Ingersoll)」との間で、業務委託や買収を繰り返す複雑な歴史があり、1969年に「タイメックス」という社名となりました。
現在のタイメックスは、高品質な時計を低価格で提供する、アメリカの国民的ブランドとして知られています。
タイメックスはどこの国のブランド? どこで製造しているの?
タイメックスはアメリカの時計ブランドですが、実際に製造しているのは、フィリピンやインドの工場とされています。
また、スイス・フランス・ドイツ・イタリアに開発拠点を持っています。
世界中から部品を調達し、人件費の安い国で製造するという方式で、ある意味アメリカらしいブランドと言えるかもしれません。
しかしそれ以上に、タイメックスがアメリカブランドということには重要な意味があります。
20世紀前半には、アメリカには多くの時計ブランドがありましたが、ほとんどがスイスや日本の時計グループに買収され、有名ブランドの中で、アメリカ資本として唯一残っているのがタイメックスだからです。
ですからアメリカ人にとっては、自国を代表するブランドということで、大統領を始めとして多くの著名人が愛用しています。
タイメックスグループとは
タイメックスは、アメリカで唯一生き残った時計ブランドというだけでなく、その生産能力を活かし、多くのブランドの時計製造を引き受けています。
以下は、2024年現在の一覧です。
- タイメックス(Timex)
- ゲス(Guess)
- ヴェルサーチ(Versace)
- フェラガモ(Ferragamo)
- ジーシー(Gc)
- ノーティカ(Nautica)
- テッド・ベーカー(Ted Baker)
- フルラ(Furla)
- ミッソーニ(Missoni)
- アディダス(Adidas)
- フィリップ・プレイン(Philipp Plein)
- プレイン・スポーツ(Plein Sport)
高級ブランドが含まれていることからも分かるように、高級時計を作ろうと思えば作れる体制を持っています。
タイメックスの歴史と人気モデル
タイメックスを代表する人気モデルを、歴史的なエピソードを交えてご紹介します。
低価格路線の失敗と成功
タイメックスの経営の歴史は、順風満帆からは程遠く、波乱万丈に満ちています。
特徴的なのは、最初から低価格路線だったということです。
1891年に発生した列車事故をきっかけに、アメリカでは信頼性の高い時計のニーズが高まります。ここで高品質時計として有名になったのがハミルトンです。
ハミルトンは年齢を選ぶ?何歳まで大丈夫?
ハミルトンはアメリカを代表する歴史ある時計ブランドとして知られていますが、値段が安いこともあり、ステータスとしては見られにくいところがあります。そのため、年齢によっては恥ずかしいという意見もあるようで ...
アメリカの時計業界が、高品質・高級路線へと進む中、あえて低価格路線に進んだのがタイメックスです。そこには、時計を誰でも持てるようにしたいという信念があったと思われます。
その結果、低価格製品が大ヒットすることもあれば、見向きもされないこともあり、倒産と買収を繰り返すことになりました。
上記で、アメリカで唯一残ったブランドとしましたが、正確には生き残ったのではなく、何度も倒れたけれどその度に復活してきたブランドと言えます。
世界初の1ドル時計:ヤンキー
1896年、タイメックス(正確にはインガーソル)は、世界初となる1ドル懐中時計「ヤンキー(Yankee)」を発表します。
当時の1ドルは、現在の価値でいうと3,000円ほどだったようです。それでも、とんでもない格安時計でした。
この時計は世界中で大ヒットし、20年間で4,000万本も売れたとされています。
世界初のキャラクターウォッチ:ミッキーマウス・ウォッチ
1933年、タイメックス(正確にはインガーソル・ウォーターベリー)は、文字盤にミッキーマウスの画像をつけた「ミッキーマウス・ウォッチ」を発売し、大ヒットします。
これは時計としては、世界初のキャラクタービジネスだったと考えられています。
当時の時計は高級品という位置づけであったため、子供向けのアニメとコラボレーションするということは、考えられないことでした。
さらに時計自体は、軍用品の余剰在庫に、ミッキーマウスの文字盤をつけただけの簡易的なものでした。それにも関わらず大ヒットしたことは、キャラクタービジネスの強みを知らしめるきっかけとなりました。
このミッキーマウス時計は、昭和天皇が愛用していたことでも知られています。
タイメックスは壊れない
1950年頃、タイメックス(インガーソル)は格安時計というブランドイメージがついていましたが、ここで「安くて丈夫な時計」へとイメージ転換を図ります。
当時普及し始めていたTVにおいて、掃除機に吸い込ませたり、水中でスクリューにつけて回したりするなど、派手なパフォーマンスをして、タイメックスの時計の耐久性をアピールしました。
「It take a licking and keep on ticking(手荒に扱っても動き続ける)」
という韻を踏んだキャッチコピーで有名です。
他の時計ブランドと比べて、本当に耐久性が高かったのかは分かりませんが、値段の割に丈夫だったというのは事実のようです。
世界初の使い捨て時計:キャンパー
ベトナム戦争(1955~1975年)において、タイメックスの時計は「使い捨て時計(ディスポーザブル・ウォッチ)」として、兵士の間で人気となりました。
これは価格が安かったので、壊れたら修理するのではなく、買い直せばいいという発想から来ています。
タイメックス自体がそれを推奨した訳ではなく、戦場という過酷な環境において、自然に発生した考えと思われます。
本当に世界初の「使い捨て時計」だったかは分かりませんが、修理せずに買い直すという価値観はそれまでになく、画期的なことだったようです。
またプロの現場において、高品質で高価な時計よりも、そこそこの性能で安価な時計の方が選ばれるということも、重要な意味を持ちました。
現在は、「キャンパー(Camper)」という名前で再販されています。
大統領も愛した:アイアンマン
1986年に発売されたデジタル時計の「アイアンマン(Ironman)」は、その機能性とデザイン性で、初年度で40万本を売り上げる大ヒットとなりました。
第42第アメリカ合衆国大統領のビル・クリントン氏が、1993年の大統領就任式の演説でアイアンマンを着用していたことでも知られています。ちなみにアイアンマンは1万円程度の時計ですが、スーツは1,000万円のものを着用していたそうです。
日本でも流行:サファリ
1988年に発売された「サファリ(Safari)」は、樹脂に本革ベルトという組み合わせに、「1~12」の外周に「13~24」が記載された文字盤が特徴の個性的なモデルです。
1989年に公開された映画『7月4日に生まれて(Born on the Fourth of July)』で、主演のトム・クルーズが着用していたことでも話題となりました。
1990年代に、日本でも人気となりました。
世界初の文字盤全面発行:インディグロナイトライト
1992年、タイメックスは世界初となる、文字盤が全面発光する「インディグロナイトライト(IndiGlo night-light)」を発表します。
ライトで一部分を照らすのではなく、文字盤全面が均一に発光することが特徴です。これにより、暗闇でもとても見やすくなっています。
また、リューズを押し込んでいる間だけ光るという、使いやすい仕様となっています。
当時のアメリカでは、
「Silly Watch. It thinks it's a lamp.(馬鹿な時計だ。自分のことをランプだと思ってやがる)」
という自虐ジョークの広告が流れました。
現在、タイメックスの時計の75%には、このインディグロナイトライトが登載されています。
汎用性が高い:ウィークエンダー
2011年に発売された「ウィークエンダー(Weekender)」は、キャンパーをベースにしつつも、ミリタリーテイストを消して、カジュアルに仕上げたコレクションです。
交換可能なナイロンストラップが特徴で、そのデザイン性から、タイメックスを代表する人気シリーズとなりました。
時計は高級品という概念を壊したブランド
タイメックスは、時計は高級品という概念を壊し、誰でも・どこでも購入できるようにし、時計を大衆化したブランドです。
「安っぽい」と評されることもありますが、安っぽいのではなく「安い」のです。
その安さこそがブランド哲学であり、タイメックスのカッコよさとなっています。
「タイメックスはダサい? 時計に金かけている方がダサいだろ」
という信念が、創業当初より貫かれています。
タイメックスのダサいという評判について
タイメックスの評判は、アメリカと日本で若干異なっています。というのも、タイメックスはむしろ日本のブランドに近いからです。日本とアメリカでの評価の違いと、着こなしについて解説します。
アメリカでの評判
アメリカでのタイメックスの率直な評判についてご紹介します。
時計ブランドランキング
ファッションメディア「GQ」の時計ブランドランキングによると、タイメックスは「The Best Affordable Watch Brands(お手頃価格の時計ブランド)」にランクインしています。
- タイメックス(Timex)
- ティソ(Tissot)
- スウォッチ(Swatch)
- カシオ(Casio)
- セイコー(Seiko)
- オリエント(Orient)
これを見ると、タイメックスはカシオやセイコーと同じ並びとみなされているということが分かります。
安いしどこでも買える
アメリカ人に話を聞くと、値段が安いし、どこでも買えるという意見が圧倒的に多いです。電池交換も簡単にできます。
このあたりも、日本人のカシオやセイコーに対する感覚と同じようなものなのでしょう。
アメリカならではとして、盗まれたり襲われたりする心配がないという意見もありました。
ダサいという感覚はない
値段が安いのは事実ですが、デザインがダサいという意見は、ほぼ見当たりませんでした。
つまりタイメックスのデザインは、アメリカ人の標準的なセンスに合っていると言えます。
カシオ同様に信頼できる
タイメックスの比較として必ず名前があがるのがカシオです。
カシオとタイメックスは、丈夫で高性能な時計を安価で提供する、信頼できるブランドという意見です。
ただしどちらも、ちょっとオタクっぽいという感覚はあるようです。
オタクというのは、コンピューターナード(Computer Nerd)などの、ファッションに興味がない人のことです。
ビル・ゲイツ氏がカシオの時計を愛用していることは有名な話ですが、タイメックスも同じ様に、ファッション性ではなく、価格と性能で選ばれる時計、ということです。
両親が持っていた
ファッショナブルではないが、ダサくはないというのは、タイメックスには長い歴史があり、祖父母や父母の世代は、ほぼ必ず持っていたということも関連しているようです。
どこにでも当たり前にあるので、ダサいとかそういう問題ではないということなのでしょう。
アメリカブランドはそこまで意識されていない
タイメックスは、アメリカ資本で唯一生き残った時計ブランドですが、一般的なアメリカ人がそのことを誇ることは、ほとんどないようです。
それこそ大統領就任式といった、特別な時くらいでしか意識されないのでしょう。
スイスでも日本でも、良いものは良いという判断です。
逆に言えば、アメリカであることは関係なしに、タイメックスが適切に評価されているということにもなります。
日本での評判
タイメックスは、スイスではなく日本のフィールドで勝負しているブランドと言えるので、日本での戦いはより厳しくなります。
そんな日本での評判と着こなしについてご紹介します。
カシオでよくない?
タイメックスの強みは「丈夫で高性能な時計を安価で提供する」ということです。
それはつまり日本ブランドの強みであり、「カシオ」「セイコー」「シチズン」が得意とするところです。
むしろカシオの方が、より安価で、より高性能な時計を提供しているとも言えます。タイメックスの価格帯は1万~3万円ですが、チープカシオに代表されるシリーズは2,000円から購入できます。
アメリカならばともかく、日本であえてタイメックスを選ぶ理由が弱くなってきます。
アメリカンテイストで勝負
このため、値段や性能ではなく、日本にはないアメリカンテイストのデザインで、タイメックスを選ぶということになります。
タイメックスは幅広いラインナップを用意しているので、お気に入りの一本も必ず見つかるでしょう。
時計好きにしか伝わらない
タイメックスの功績は、高級品だった時計を大衆品にしたことです。
その大衆品をあえて身につけることに面白さがあり、昨今の高級時計ブームに対する反発だったりするのですが、そういう話は時計好きにした伝わりません。
チープカシオならば、「なるほど、あえて安い時計を身に着けているのね」となるでしょうが、タイメックスだと「なんか安っぽい時計」としかならない可能性が高いです。
しかし他人の評価を気にする人は、そもそもタイメックスを選ばないでしょう。
昭和天皇は、公務においてもミッキーマウス・ウォッチを身に着けていたといいます。その心意気を見習いたいところです。
ファッション上級者向け
ファッションという観点からすれば、タイメックスは上級者向けとなります。
方針としては、Tシャツにジーンズのようなシンプルなファッションに合わせるか、ビル・クリントン大統領のようにハイブランドファッションの「はずし」として合わせるか、の2つとなります。
中途半端に行うと、安っぽい時計という点のみが浮き出てしまうことになります。
どちらの場合でも、あえてタイメックスをつけるという信念が、コーディネートをまとめることになるでしょう。
まとめ タイメックスはダサいか? 日本とアメリカの評判の違い
記事の内容をまとめます。
- タイメックスは、1854年にアメリカで創業された老舗の時計ブランド
- アメリカで創業された時計ブランドのほとんどがスイスか日本に買収され、唯一残っているのがタイメックス
- タイメックスはアメリカを代表する時計ブランドとして、大統領を始めとして多くの著名人が着用している
- タイメックスは創業当初より低価格路線で、高級品だった時計の大衆化に成功した
- タイメックスの時計は、ミリタリーテイストのあるキャンパーや、それをカジュアルにしたウィークエンダーが特に人気
- タイメックスのアメリカでの評判は、高品質で丈夫な時計を、安価な価格で提供する、信頼できるブランド
- タイメックスのブランド戦略は、日本の時計ブランド、特にカシオと重複しているので、日本での評価は厳しくなる
- 日本では、アメリカンテイストが好きな人や、タイメックスのブランドストーリーが好きな人に選ばれている
- 安っぽくてダサいのがカッコいい、それが時計を大衆化したブランドであるタイメックス