ノモスとは、ドイツの時計メーカーのことですが、哲学や歴史の授業でその言葉を聞いたことがあるかもしれません。語源は同じです。ノモスの時計は、とてもドイツ的であるということで知られています。この記事では、ノモスの特徴や評判、そして代表するモデルについて、詳しく解説しています。
ポイント
- ノモスの概要と特徴
- ノモスの意味
- グラスヒュッテの意味
- ノモスの評判と支持する年齢層
- ノモスを代表するコレクションの紹介
ノモス・グラスヒュッテとは
ノモス・グラスヒュッテについて、その概要と、社名の由来、創業者、デザインの特徴、評判、年齢層について詳しく解説します。
ノモス・グラスヒュッテの概要
「ノモス・グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)」とは、ドイツの高級時計メーカーです。1990年に「ローラント・シュヴァートナー(Roland Schwertner)」氏によって、ドイツのグラスヒュッテにて創立されました。一般的に「ノモス」と略されて呼ばれています。
創立が1990年ということで、新しい時計メーカーですが、2005年にはムーブメントを自社開発してマニュファクチュール体制を確立するなど、急速に成長し、知名度も高まっています。
その特徴は、シンプルなデザインと見やすい文字盤で、機能性を重視するドイツらしい時計として知られています。
ノモスとはどういう意味?
「ノモス(NOMOS)」という言葉は、古代ギリシア語の「νόμος」に由来しており、直訳すると「法」「規範」「原則」という意味です。さらに古い意味では「分け前」だったと考えられています。
時計ブランドの名前としての「ノモス」には、デザインや品質に対しての美学が反映されていると考えられます。また後述するように、「人が作ったもの」という意味が強調されている可能性もあります。
世界史で見た「ノモス」や「ピュシス」と同じ?
「ノモス(νόμος)」と対立する概念に「ピュシス(φύσις)」があります。
簡単に言うと「ピュシス」は「自然が持つ根源的なルール」で、「ノモス」は「人間が作ったルール」のことです。
古代ギリシアの哲学者たちは、この「ノモス」と「ピュシス」を対立させ、人はどう生きるべきかということを考察しました。哲学者によって「ノモス」を重視する、「ピュシス」を重視する、バランスを取るなど立場は色々でした。
また、高校の世界史で「ノモス」を見たということであれば、おそらく哲学の話ではなく、エジプトの行政区分のことです。古代エジプトの国家は、ナイル川を中心に細かな地区に分けられており、それぞれに管理者がいました。この行政区分のことを「ノモス」と言います。
古代エジプト人が「ノモス」という言葉を使っていたわけではなく、エジプトでは「セパト(spȝt、地区)」と呼ばれていました。エジプトが古代ギリシアの影響下に入ったプトレマイオス朝(紀元前305年~紀元前35年)の頃に、ギリシア人によって「ノモス」と呼ばれ始め、学術用語として定着したようです。語源は上記と同じです。
グラスヒュッテとはどういう意味?
「グラスヒュッテ(Glashütte)」とは、ドイツの「ザクセン州(Freistaat Sachsen)」にある町の名前です。日本語で「ガラス工場」を意味します。
人口7,000人程度の小さな町ですが、ドイツの時計製造の中心地として、世界的に知られています。
グラスヒュッテの時計製造は、1845年に「フェルディナント・アドルフ・ランゲ(Ferdinand Adolph Lange)」が、「A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)」を設立した時から始まりました。
また、「アルフレッド・ヘルヴィッヒ(Alfred Helwig)」が時計製造学校を設立したので、多くの時計職人が、この地で理論と技術を学びました。
そのため、ドイツを代表する多くの時計メーカーが、グラスヒュッテに本拠地を構えています。
グラスヒュッテにある時計ブランド
グラスヒュッテに関連する時計メーカーとしては、以下のようなブランドがあります。これ以外にも存在しています。
- A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)
- グラスヒュッテ・オリジナル(Glashütte Original)
- ミューレ・グラスヒュッテ(Mühle Glashütte)
- ノモス・グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)
- チュチマ(Tutima)
- モリッツ・グロスマン(Moritz Grossmann)
- ユニオン・グラスヒュッテ(Union Glashütte)
ノモス・グラスヒュッテの建物は、A.ランゲ&ゾーネやグラスヒュッテ・オリジナルの、すぐ隣に立っています。
グラスヒュッテ・ルールとは
「グラスヒュッテ」という地名は、時計製造の聖地としてブランド化しているため、「グラスヒュッテ製(Made in Glashütte)」を名乗るためには、ムーブメントの主要な部品の50%以上をグラスヒュッテ地方で製造する必要があると定められています。
ノモス・グラスヒュッテは、それを大きく上回る95%以上をグラスヒュッテで生産しています。ムーブメントの設計から製造までを自社で行っている時計会社は、世界的に見ても多くはありません。
創業者のローラント・シュヴァートナーってどんな人?
ノモス・グラスヒュッテは、1990年に「ローラント・シュヴァートナー(Roland Schwertner)」氏によって、グラスヒュッテで設立されました。
1990年というと、東西ドイツが再統一された年です。グラスヒュッテは東ドイツに属しており、当時から時計製造の地として知られていました。
ローラント氏に関する情報は、多くは公開されていませんが、時計製造の経験は一切なく、西ドイツでコンピュータ技術者かつ写真家をしていたようです。
また1990年代は、安価な大量生産が主流な時代でした。
東西ドイツ統一のわずか2ヶ月後、グラスヒュッテを訪れたローラント氏は、時代の流れに逆らい、伝統的な時計製造と、シンプルかつモダンなデザインを組み合わせたブランドを目指し、ノモス・グラスヒュッテを設立したとされています。
その後急速に成長し、今日では世界的に知られるブランドとなりました。
ノモスとノモス・グラスヒュッテは違う?
ノモス・グラスヒュッテが設立されたのは1990年です。
しかし1906年には、「グイド・ミュラー(Guido Müller)」氏が設立した「ノモス」という時計メーカーが存在していました。こちらの「ノモス」は、スイスから輸入した時計に「グラスヒュッテ」という名前をつけて販売していましたが、上記のグラスヒュッテ・ルールに反するということで裁判になって、1910年には閉鎖したようです。
この「ノモス」を、ローラント氏が復活させたのが「ノモス・グラスヒュッテ」だという情報もありますが、公式には発表されていません。おそらく直接的な関係はないと思われます。
ノモスのデザインの特徴 バウハウスとは?
ノモス・グラスヒュッテのデザインは、バウハウス的と評されます。
「バウハウス(Bauhaus)」とは、1919年にドイツで設立された、デザインと建築を学ぶ美術学校のことです。「形状は機能に従う」という理念に基づき、無駄な装飾を排除し、機能性と合理性を重視し、かつ生産のしやすさを考慮した、世界で初めて「モダン」なデザインを確立した学校でした。
ナチス政権の圧力により1933年に閉校したため、活動していたのはわずか14年ですが、その理念は世界中に広まりました。建築だけでなく、すべての現代的なデザインの基礎となっています。
ノモス・グラスヒュッテの時計のデザインにも、バウハウスの理念が体現されています。
ノモス・グラスヒュッテの評判は?
ノモス・グラスヒュッテは、シンプルなデザインと、技術力、そして品質に対して低価格であるということが大きく評価されています。
デザイン
ノモス・グラスヒュッテの洗練されたミニマムなデザインは、流行に左右されない普遍的な美しさとして高く評価されています。
またシンプルなだけでなく、視認性が高いことも特徴です。
国際的なデザイン賞を160以上も受賞しており、デザインと品質の両方から高い評価を得ています。
技術
ノモス・グラスヒュッテは、1990年の創業後、1992年に初めてのモデルを発表しました。この時はETA社のムーブメントを採用していました。
そのわずか13年後の2005年には、自社でムーブメントを製造するようになり、マニュファクチュール体制を整えました。
2007年にはトゥールビヨンを発表し、技術力の高さを証明しました。
特に2014年に発表された、独自の脱進機である「スイングシステム」は業界内で注目されています。
価格帯
ノモス・グラスヒュッテの時計は、日本円で10万~50万円のものが多く、機械式時計としては低価格帯となっています。
品質には間違いがないため、お手頃感のある入門ブランドとして支持されています。
ノモスを購入する年齢層は?
ノモス・グラスヒュッテは1990年創業の若いブランドで、かつ低価格帯ということもあり、20代~30代の若い層に支持されています。
シンプルで洗練されたデザインは、フォーマルなビジネス環境でも、カジュアルな日常使いでもよく合いますので、最初の一本として選ぶ方も多いです。
実際にノモス・グラスヒュッテ側も、卒業記念のプレゼント用として推奨しています。
ノモスのムーブメントは手巻き・自動巻き?
ノモス・グラスヒュッテでは、手巻き・自動巻き両方のムーブメントを提供しています。
下記は、2024年現在の一覧です。
キャリバー | パワー | 高さ | 直径 | パワーリザーブ | 機能 | |
---|---|---|---|---|---|---|
DUW6101 | 自動巻き | 3.6mm | 35.2mm | 42時間 | 日付 | |
DUW3001 | 自動巻き | 3.2mm | 28.8mm | 43時間 | ||
EPSILON | 自動巻き | 4.3mm | 31mm | 43時間 | ||
DUW5001 | 自動巻き | 4.3mm | 31mm | 43時間 | ||
DUW5101 | 自動巻き | 4.3mm | 31mm | 42時間 | 日付 | |
ZETA | 自動巻き | 4.3mm | 31mm | 42時間 | 日付 | |
DUW5201 | 自動巻き | 5.7mm | 31mm | 42時間 | ワールドタイム | |
ALPHA | 手巻き | 2.6mm | 23.3mm | 43時間 | ||
DUW4101 | 手巻き | 2.8mm | 32.1mm | 42時間 | 日付 | |
DUW4301 | 手巻き | 2.8mm | 23.3mm | 43時間 | パワーリザーブインジケーター | |
DUW4401 | 手巻き | 2.8mm | 32.1mm | 42時間 | 日付 パワーリザーブインジケーター | |
DUW2002 | 手巻き | 3.6mm | 32.6mm x 22.6mm | 84時間 | ツインバレル | |
DUW1001 | 手巻き | 3.6mm | 32mm | 84時間 | パワーリザーブインジケーター ツインバレル |
「DUW」とは「Deutsche Uhrenwerke(ドイツの時計)」の略で、ノモス・グラスヒュッテが完全に自社で設計・製造したムーブメントであることを示しています。
ノモスを代表するコレクションとは
ノモス・グラスヒュッテを代表するコレクションの概要と特徴についてご紹介します。
タンジェント
「タンジェント(Tangente)」は、ノモス・グラスヒュッテを代表するモデルとして、高い人気を誇っています。
シンプルで洗練されたデザインと、バウハウスの影響を受けた機能的な美しさが特徴です。
タンゴマット
「タンゴマット(Tangomat)」は、タンジェントの自動巻きバージョンとして位置づけられています。
タンジェントよりも、やや大きめのケースを採用しており、存在感がありながらも洗練された印象を与えます。
アウトバーン
「アウトバーン(Autobahn)」とはドイツの高速道路のことで、そこからインスピレーションを得た、流れるような曲線とダイナミックな外見が特徴です。
ノモス・グラスヒュッテの中でも、特に現代的なデザインを追求したモデルです。
アホイ
「アホイ(Ahoi)」は、アウトドアや水中での活動に適した、スポーティなラインナップです。
ミニマムなデザインを保ちつつ、ステンレススチールのケースやサファイアクリスタルガラスを採用し、堅牢性を確保しています。またナイロンストラップが特徴です。
オリオン
「オリオン(Orion)」は、クラシックでエレガントなコレクションです。
曲線的なケースとドーム型のガラスが特徴で、ヴィンテージ感溢れるデザインとなっています。
クラブ
「クラブ(Club)」は、カジュアルで活動的なデザインが特徴のコレクションです。
明るい文字盤と頑丈なケース、日常生活における防水性能を備えており、若者のアクティブシーンに適している一方、クラシックさも残しているので、エントリーモデルとして支持されています。
チューリッヒ
「チューリッヒ(Zürich)」とはスイス最大の都市のことですが、この名がつけられたコレクションは、国際的な都市としてのエレガントさが特徴です。
自動巻きムーブメントを搭載しており、一部のモデルにはワールドタイマーも備えています。洗練されたビジネスシーンに適したデザインとなっています。
テトラ
「テトラ(Tetra)」は、四角いケースが特徴のコレクションです。
ノモス・グラスヒュッテの時計はラウンドケースが多いので、その中でも特に目を引く存在となっています。
ミニマティック
「ミニマティック(Minimatik)」は、自動巻きラインナップの中でも、特に現代的なスタイルとなっています。
薄型のケースが特徴で、高性能なムーブメントと洗練された外見を両立させています。
メトロ
「メトロ(Metro)」は、シンプルながらも遊び心のあるデザインが特徴のコレクションです。
都会的なライフスタイルによくマッチする、スタイリッシュな時計です。
ラックス
「ラックス(Lux)」はラテン語で「光」を意味しており、輝きと豪華さを兼ね備えた、高級感のあるコレクションです。
シンプルながら繊細なデザインとなっています。
ラドウィッグ
時計のコレクション名は「ラドウィッグ(Ludwig)」という英語の発音よりになっていますが、一般的に日本では「ルートヴィヒ」と訳され、ドイツの皇帝の名前に由来します。
伝統的で上品な、洗練されたデザインが特徴です。
ラムダ
「ラムダ(Lambda)」は、同社の最高級モデルで、エレガントさが特徴です。
少し大きめのケースと、繊細な文字盤が、高級感を際立たせています。
まとめ ノモス・グラスヒュッテとは
記事の内容をまとめます。
- ノモス・グラスヒュッテは、1990年に創業された、ドイツの高級時計メーカー
- グラスヒュッテとは、ドイツを代表する時計の生産地で、多くの時計メーカーが集まっている
- ノモスとは、規律・法・人が作ったルールというような意味で、自然が作ったものという意味のビュシスと対立する概念として、ギリシア哲学者によって議論された
- ノモスは、古代エジプトの行政区分も意味する
- ノモス・グラスヒュッテは、自社でムーブメントの設計から製造まで行なう、マニュファクチュールメーカー
- ノモス・グラスヒュッテは、バウハウスの影響を強く受けた、シンプルで機能的なデザインが特徴
- ノモス・グラスヒュッテは、機械式時計としては低価格帯で、品質に対して割安感があると評されている
- ノモス・グラスヒュッテの代表モデルはタンジェントで、シンプルで洗練されたデザインが特徴