蛙化現象とは、片思いから両思いになった瞬間、急に相手に嫌悪感を抱く現象のことです。相手にとっても、自分にとっても、理不尽で意味不明な行動のため、頭おかしいと取られてしまうことも多々あります。ここでは、蛙化現象の由来と、心理学的な原因と対策方法をご紹介します。
蛙化現象の頭おかしい由来
蛙化現象とは
「蛙化現象(かえるかげんしょう)」とは、自分が好意を抱いている相手に対し、相手の方も自分に好意を抱いていることが明らかになると、急に嫌悪感を持つようになる現象のことです。片思いから両思いになったのに、急に相手のことを嫌いになってしまうということです。男性より女性の方に多く見られる現象とされています。
この現象は、2004年に跡見学園女子大学の教授・藤澤伸介氏により取り上げられましたが、2020年頃から話題となり、2023年上半期には流行語ランキング1位に選ばれました。
2020年には、我楽谷による漫画『カエルになった王子様』が発売されました。
蛙化現象の由来 グリム童話『蛙の王さま、あるいは鉄のハインリヒ』
「蛙化現象」の「蛙」は、グリム童話の『蛙の王さま』という話が元となっています。以下のような話しです。
美しいお姫さま
むかしむかし、あるところに一人の王さまが住んでいました。王さまには三人のお姫さまがいました。特に一番末のお姫さまはとてもきれいでした。
お城の近くには、暗い森があり、森の中の古い菩提樹の木の下には泉がありました。一番末のお姫さまは、泉のふちに座って、金のまりを高く上げては受け止めて遊ぶのが大好きでした。
金のまりを落とすお姫さま
ある時、お姫さまがいつものように金のまりを投げて遊んでいると、手からすり抜け、泉の中に落ちてしまいました。泉はとても深く、金のまりは見えなくなってしまいました。
お姫さまが悲しんでいると、
「お姫さま、どうしましたか」
と声がします。あたりを見回すと、醜い蛙が目につきました。
蛙と約束をするお姫さま
お姫さまは蛙に言いました。
「金のまりが泉に落ちてしまったの」
蛙はこう答えます。
「それなら私が取ってきましょう。でも、代わりに何をくれるんですか?」
「なんでもあげますよ。服でも、宝石でも、今被っている王冠でも」
「服、宝石、王冠。そんなものは欲しくありません。でも、私を愛し、隣の席に座り、同じ皿で食事をし、同じカップで飲み、同じベッドで寝ると約束してくれるなら、金のまりを取ってきましょう」
お姫さまは、
(この馬鹿な蛙は何を言っているのだろう。蛙と人間が一緒になれるわけないのに)
と思いましたが、
「わかりました、約束します。金のまりを取ってきてください」
と答えます。
蛙はすぐに水の中に潜り、金のまりをとってきました。
お姫さまは金のまりを受け取ると、走ってお城に帰ってしまいました。
お城にきた蛙
次の日、お姫さまが王さま達と一緒に食事をしていると、扉を叩く音がします。
「お姫さま、開けてください、開けてください」
扉をあけると、そこには昨日の蛙がいました。びっくりしてしまうお姫さま。その様子を見た王さまは、お姫さまに何かあったのかと尋ねます。お姫さまは昨日あったことを話しました。
それを聞いた王さまは、
「約束したならば、守らなければいけない」
と言います。
すると蛙は、テーブルの上に飛び乗りました。
「さあお姫さま、一緒のお皿で食べましょう。皿をもっとこっちに近づけてください」
お姫さまは、いやいや皿を近づけます。蛙はその皿から、嬉しそうに食べました。
「さあ、そのカップをもっと近づけてください」
お姫さまがいやいやカップを近づけると、蛙はそのカップからおいしそうに飲みました。
「ああ、もうお腹いっぱいです。一緒に寝ましょう。ベッドに連れて行ってください」
とうとうお姫さまは泣き出してしまいました。しかし王さまは、
「困っている時に助けてくれたものに対して、その態度は何だ!」
と怒り出します。
王子様になる蛙
お姫さまは、蛙を指でそっとつまむと、寝室に連れていき、部屋の隅に置きました。
しかし蛙は
「ベッドにあげてください。一緒に寝ましょう。でないと、王さまに言いつけますよ」
と言います。
怒ったお姫さまは、
「いやらしい蛙! これで眠れるでしょう!」
と力いっぱい、蛙を壁に投げつけます。
すると蛙は、美しい王子様に姿を変えました。王子様は、悪い魔女に魔法をかけられていたのです。
そしてお姫さまと王子様は結婚をしました。
鉄のハインリヒ
次の日、王子様の家来のハインリヒが、馬車を率いてやってきました。
王子様が蛙に変えられた後、ハインリヒは悲しみで胸が張り裂けないように、心臓の周りに鉄の輪を三つもはめていました。
ハインリヒは、王子様とお姫さまを馬車に乗せると、王子様の国に向かって出発しました。
しばらくすると、王子様は、パキンという音を聞きます。
「ハインリヒ、馬車が壊れたぞ」
「いいえ王子様、これは私の心を縛る、鉄の輪が外れたのです」
またしばらくすると、パキン、パキンという音がします。
王子様は馬車を心配しましたが、ハインリヒの鉄の輪が外れただけでした。
生理的に無理
これが蛙化現象の元ネタとなったお話です。結構、生々しいですよね。
一番気になる点としまして、元々のグリム童話では「醜い蛙 → 美しい王子様」だったということです。しかし「蛙化現象」は「美しい王子様 → 醜い蛙」という反対の意味で使われています。これは物語の文脈というよりも、年頃の若い女性が持つ嫌悪感、「生理的に無理」という感覚が、「蛙」という比喩によく表れているためだと思われます。
個人的な感想ですが、お姫さまかわいそうですよね。こんなの誰にとっても「マジムリ」「キモい」でしょう。
あと唐突に出てきた「ハインリヒ誰やねん」という問題。グリム童話は、グリム兄弟が創った話ではなく、昔話を編纂したものなので、グリム兄弟に言っても「知らんがな」というところですね。似たような話が複数伝わっていて、それをまとめたらこうなった、ということのようです。
ちなみにグリム童話は何度も書き直され、初版から第7版まであるのですが、この「蛙の王さま」は、全ての版で巻頭第一話を飾っています。つまりグリム童話を代表する作品、一番大切にしていた話……なのでしょうか。
蛙化現象の誤用
蛙化現象は「相手が自分のことを好きだと分かった瞬間に、生理的に嫌悪感を持つ」というものです。よくある誤用は「ふとした瞬間に冷める」というものです。
極端な話、「デート中に鼻毛を抜いていた」ということであれば百年の恋も凍りつくというものですが、もっとさりげないものですね。例えば、
- 支払いで手間取った
- 歩いている時によろめいた
- Androidだった
など、何の理由にもならないようなことで、恋が冷めてしまったことを、蛙化現象と呼ぶ誤用が広まっています。流行語にもなった弊害と言えるでしょう。
蛙化現象は何かを考えるのに、元となったグリム童話は「生理的に無理」感がよく出ていて、参考になると思います。「隣の席に座る」のも「一緒のお皿で食べる」のも「一緒のベッドで寝る」のも、王子様ならいいんかーいという話ですからね。でも蛙は無理。絶対に無理。王子様から好きだと言われたのに、急に蛙に見えてしまう。それが蛙化現象です。
蛙化現象で頭おかしいとは言わせない!原因と対策
蛙化現象が頭おかしいと思われる理由
相手からしたら理不尽
蛙化現象の一番の被害者ですね。好きだと言われたから、相手のことを好きになったのに、急に嫌いと言われる。それもただの嫌いではありません。「生理的に無理」です。「好き」から「生理的に無理」への、唐突なフルカウンターをお見舞いしたことになります。
これは受けた側からすると、たまったもんじゃないですね。「騙されたのか」「馬鹿にされたのか」と思うでしょうし、あたたのことを好きという気持ちは、塵となって消えてしまうでしょう。
さすがに「頭おかしい」と言われても、しょうがないんじゃないかと思います。
周りから見ても意味不明
それを周りで見ていた第三者にしても、あいつ何やってるんだ、となりますよね。「ひどい」「最低」「頭おかしい」と言う人も出てくるでしょう。まったくもって理屈が通っていないですからね。
「信用できない人」というレッテルを貼られてしまうかもしれません。
自己嫌悪のサイクル
そして、自分でも「頭おかしい」と思ってしまうかもしれません。いったい自分は何をやっているんだと。
蛙化現象は、もともと自信がない人で起きやすいと言われています。自分のせいで相手を傷つけてしまった、周りからも嫌なヤツと見られているということ、自己嫌悪に陥り、やっぱり自分は嫌なヤツだった、こんな自分が誰かを好きになってはいけない、好かれてはいけない、やっぱりそうだったんだ、という負のループになってしまいます。
蛙化現象の原因
蛙化現象になる人の特徴として「自信がない」「恋愛経験が少ない」「性行為に抵抗がある」が挙げられます。これらを一言でまとめると「自分が変わることに対しての恐怖心」とも言えます。
自己肯定感が低い
モテる人の特徴は「自分はモテる」と思っているということです。逆にモテない人は「自分はモテない」と思っています。これらを自己肯定感・自己効力感といいます。簡単に言えば自信です。
自分はモテないと思っている時にモテてしまうと、自己認識とのズレが生じてパニックになってしまいます。そして相手に嫌悪感を持つことで、自己認識の方を正当化させます。
現状維持機能
生物には現状をできる限り維持しようとする機能が備わっています。この現状のことを「コンフォートゾーン」と言います。例え現状に不満を持っていたとしても、この現状で今まで生きてきたという実績があります。無意識は、新しいこと・未知のことは、命に危険があることと認識します。結果、無意識は自分の命を守るために、過去の実績の方を優先し、現状を維持するという選択をします。
簡単に言えば、人は変わりたくないということです。宝くじで大金持ちになった人は、ほとんどの場合、一瞬にしてお金を失っています。そのくらい現状維持機能は強力なのです。
性の意識
元ネタのグリム童話では、初対面の異性に対し「一緒にベッドで寝たい」という火の玉ストレートのセクハラをかましてきます。ベテラン(?)であれば「あらあら」で流せるのかもしれませんが、そういう行為に慣れていない人が嫌悪感を持つのは当然のことです。
「いきなりベッド」でなかったとしても、相手に好かれるということは、そういう対象として見られているということになります。上記の現状維持機能の考え方からすれば、特大の変化となります。人はそう簡単に変わることはできません。結果、相手に嫌悪感を持つことで、自分の殻に戻ることとなります。
蛙化現象の治し方
蛙化現象を治すには、一言で言えば「根拠のない自信を持つ」ということです。根拠のない自信について、詳しく解説します。
過去は関係ない
「根拠」は「過去」と言いかえることもできます。普通は「過去の実績」に基づき、「自分にはこのくらいの実力がある」という自己認識を持ちます。それが自信となります。
しかし、思うだけならば勝手に思ってしまえばいいのです。つまり過去のことは一切関係がなく、ただ「自分にはこのくらいの実力がある」「それをする資格がある」と思いましょう。実際、一流のスポーツ選手はみんなそうです。イチローは小学生の時からプロ野球選手になって当然と思っていました。
慣れていない方は、そんなことをしては駄目なんではないかと抵抗感があるかもしれません。大丈夫です。口に出さなければいいんです。口に出すと「ビッグマウスだ」「生意気だ」といろいろ言われますが、自分の心で思っている分には誰の邪魔も入りません。自由です。好きなだけ傲慢になってください。
未来を意識する
あなたが誰かを好きだということは、こんなことが起きればいいのにという未来を想像しているはずです。しかし現実にそれが実現しそうになると、過去の自分に引っ張られてしまう。
過去ではなく、未来に引っ張られている感覚を持ちましょう。いわゆる「引き寄せの法則」というものです。自分はどんどん理想の未来に引っ張られている。そう考えていれば、相手も自分のことを好きだと分かったら、「ほら来た!」と受け入れることができます。
変化を受け入れる
現状維持のところで説明した通り、人間は命の危険を回避するために、なるべくいつも通りの行動をしようとします。原始時代はそれが正解だったのかもしれませんが、変化の速い現代においては、むしろ変化しない方が危険であると言えます。変化を受け入れると恐怖心が出てきますが、それは原始時代の感情です。周囲の環境に合わせて、自分も変化していく。そうすれば、相手の好意も受け入れることができるようになります。
幸せな自分を許す
自己肯定感が低い方は、自分には幸せになる資格がないと思っていることがあります。これは両親の影響が大きいようです。人が幸せになるのに、誰の許可もいりません。何の資格もいりません。もちろん両親は何の関係もありません。どうぞ幸せになってください。
また「Aを手に入れるには、Bを犠牲にしなければいけない」と考えている方がいます。これにも何の根拠もありません。どうぞAもBも手に入れてください。
体を動かす
そんなことは分かっている。頭では分かっているけれど、でも……!
ということであれば、別のアプローチをしましょう。「心と体は一つ」です。心で行ったことは体に表れますし、体で行ったことは心に表れます。
つまりは運動・スポーツをしましょう。体が動けば、心も動く。歌もいいですね。歌は呼吸と大きく関わりがあります。呼吸は心と体の境界にあります。運動したり、歌ったりすれば、心が明るく・前向きになります。人の好意にも向かい合うことができるようになります。
まとめ 蛙化現象は頭おかしいの?
蛙化現象とは、好きな相手が自分のことも好きだということが分かった瞬間、急に相手のことを嫌いになり、生理的に受け付けなくなる現象のことです。蛙という言葉は、これはグリム童話の『蛙の王さま』に由来します。
別に「頭おかしい」訳ではなく、恋愛以外でもよく見られる現象です。心理学では、自己肯定感の低さと、現状維持機能により、新しい変化を受け入れることができずに、元に戻ってしまうと考えます。蛙化現象では、これに加えて性意識も関連してきます。
蛙化現象を防ぐには、自己肯定感を高め、変化を受け入れる必要があります。そのためには、過去の実績は無視して、自由に未来を想像し、その未来が実現して当然だという根拠なき自信を持つことが大切です。難しい場合は、体を動かすことから入るのがおすすめです。