ワインに氷を入れて飲むことはマナー違反でしょうか。確かにソムリエがワイングラスに氷を入れている光景はあまり見ませんが、ワインを使ったカクテルでは、氷が入っていることが当たり前です。結局のところ、好みの問題なので、個人の好きにすればいいということになりますが、マナーを守るべき場合というのも存在します。この記事では、ワインに氷を入れない理由、または入れるべき理由、氷を使ったカクテルやヨーロッパの事情などについて解説します。
ポイント
- ワインに氷を入れる理由
- ワインに氷を入れない理由
- 夏場のヨーロッパでのワインの楽しみ方
- ワイン以外のアルコール飲料と氷の関係
ワインに氷を入れない理由
ワインに氷を入れる理由
そもそもワインに限らず、なぜアルコール飲量に氷を入れるでしょうか。一般的には次の2つの理由があります。
冷たさを楽しむ
暑い夏などに、冷たいドリンクを飲みたい。それが、氷を入れる一番の理由でしょう。ワインは常温になっていることが多いので、もっと冷やしたいということです。
それならば冷蔵庫等で冷やせばいいのですが、すぐに冷やしたい時に氷は役に立ちます。また氷が入っていることにより、ぬるくなることがなく、長時間冷たさを維持することができます。
アルコールを薄める
もう一つは、アルコールを薄めるということです。ウイスキーなどの蒸留酒は「ロック」で飲むのが定番です。
蒸留酒のアルコール度数は40%以上ありますが、ワインのアルコール度数は12~15%程度です。アルコール飲量の中では低めではありますが、それでも人によっては薄めたいということもあるでしょう。
ワインに氷を入れない理由
ワインに氷を入れない理由は、簡単に言えば不味くなるからです。ワインの複雑な風味は絶妙なバランスで成り立っていますが、氷を入れることにより崩れてしまいます。
薄くなる
まず、氷が溶けた水で薄まることにより、本来の風味のバランスが崩れ、なんとも微妙な味わいとなってしまいます。
甘さを感じず、渋さが際立つ
氷により温度が下がると、甘さを感じにくくなります。そのため、ワインのタンニンの渋さだけを感じるようになります。
温度が下がると、甘さと同様に渋さも感じにくくなるのですが、甘さの影響の方が強いのか、結果的に渋さだけを強く感じるようになります。
香りがなくなる
香りとは、分子化合物が揮発して空気中に拡散し、鼻の粘膜に触れることで感じられます。
温度が下がると、空気中に放出される割合が少なくなるので、香りを感じにくくなります。
失礼にあたる
このように、ワインの風味を楽しむためには、適切な温度管理が必要となります。
高級レストランでは、ソムリエが最適な温度で提供してくれるので、そこに氷を入れて温度を変えてしまうのは、マナー違反となります。
ワインに氷は邪道?
このようにワインに氷を入れることには、メリットもデメリットもあります。
個人でどのように楽しむかは自由ですが、レストランやパーティなど、他人がいる場合は、意見がぶつかる場合もありますので、柔軟に対応しましょう。
高級レストランやワイン専門店など、ソムリエがいる場合は、ソムリエの判断に任せましょう。一般的には、冷たいワインが必要であれば、氷を入れるのではなく、ボトルを冷やして提供してくれます。ワインの中には、氷を入れることを前提としているものもありますが、それも含めて適切な対応をしてくれるはずです。
カジュアルなバーは、様々なお酒を、自由に組み合わせて楽しむころです。ワインを使ったカクテルも多数ありますし、氷を入れて飲むことも、珍しいことではありません。
カフェなどでは、氷が欲しいと言えば、入れてくれることでしょう。
自宅においては、もちろん好きなスタイルで飲んで構いません。
ヨーロッパではワインに氷を入れる?
ヨーロッパでも、ワインに氷を入れて飲むことは普通にあります。しかも最近は、猛暑の影響で増えているそうです。気温がこれだけ変わっているのだから、飲むスタイルも変わって当然と言えます。
ロックの場合もありますが、水割りや炭酸水割りも多く飲まれています。
フランス
暑い夏には、冷たい飲み物ということもありますが、それ以上に求められるのは、ごくごく飲める、水分補給としてのアルコールです。日本ではビールが一般的ですね。
もちろんフランスには、高級ワインを大切にする文化もありますが、ごくごくワインを飲みたい時もあります。そのような時は、ロゼワインをロックで飲むのが定番です。氷を入れるならば、赤ワインや白ワインよりも、プロヴァンス地方のロゼワインが向いているようです。
イタリア
イタリアでは、暑い夏には「プロセッコ(prosecco)」というスパークリングワインを飲むのが定番です。
また、「スプリッツ(spritz)」というカクテルも人気です。代表的なレシピは以下の通りです。
- プロセッコ:1
- アペロール(またはカンパリ):1
- 炭酸水:1
- オレンジスライス
- 氷
スペイン
スペインは「サングリア(sangría)」が有名ですが、「カリモーチョ(kalimotxo)」というカクテルも人気です。代表的なレシピは以下の通りです。
- 赤ワイン:1
- コーラ:1
- ライムスライス
- 氷
ドイツ
白ワインを炭酸で割ったカクテルを「スプリッツァ(spritzer)」と言いますが、実はこれはドイツ語の「シュプリッツェン(spritzen)」から来ており、「弾ける」という意味です。ただし発祥はドイツではなく、オーストリアのようです。
ドイツでは、白ワインの水割りを「ヴァインショルレ(weinschorle)」、赤ワインの水割りを「ロートヴァインショルレ(rotweinschorle)」と言います。ただ、水割りではなく炭酸水割りの場合もあります。そもそもドイツのミネラルウォーターには、最初から炭酸が入っているので、水割りと炭酸水割りの区別があまりないようです。
- 白ワイン(または赤ワイン):1
- 水(または炭酸水):1
- レモンスライス
- 氷
安ワインには氷を入れたほうがいい?
一般的に安ワインとは、熟成期間が短いワインを指します。熟成期間が長くなるほど、管理コストが必要となるので、高額となります。
熟成期間が長いワインに氷を入れて冷やすと、タンニン渋みだけが強く感じられてしまうことがあります。
一方、熟成期間が短いワイン、つまり安ワインは、フレッシュなフルーティーな風味であることが多く、氷を入れて冷やしても、その風味が大きく損なわれることはありません。
したがって、安ワインには氷を入れたほうがいいということではなく、氷を入れるならば安ワインの方が向いているということになります。
安いかどうかに関係なく、不味くて飲めないワインに、大量の氷を入れて薄めることで、飲みやすくなるということはあります。
氷を入れたワインの呼び方
氷を入れたワインに、特に決まった呼び方はありません。
ウイスキーなどと同じ用に「オン・ザ・ロック(on the rocks)」、または「ワイン・オン・アイス(wine on ice)」と呼ばれることが多いようです。
最近「かち割りワイン」という呼び方が出てきていますが、これは居酒屋でも気軽にワインを飲めるようにと、サッポロビールが広めようとしている言葉のようです。
白ワインには氷を入れる?
一般的に、赤ワインは10~18℃、白ワインは5~14℃で飲むのが適温とされています。白ワインの方が温度が低いので、氷を入れるならば白ワインの方が向いていると思われるかもしれません。
実際には、白ワインだから向いているということもなく、モノによります。また、白ワインだから氷を入れないといけないということもありません。基本的には、氷を入れるのではなく、ワインクーラーなどでボトルごと冷やします。
氷を入れるとどうしても味が薄まりますので、それで美味しくのめるかどうかは、赤白関係なく、そのワインとの相性になります。最近は、氷を入れることを前提に調整されているワインもありますので、最初からそういうワインを選ぶのもよいでしょう。
ワイン以外のアルコールで氷を入れない理由
醸造酒と蒸留酒
ワインと同じようにあまり氷を入れないアルコール飲量としてビールがあります。また日本酒に氷を入れるのも、あまり一般的ではありません。
一方、焼酎やウイスキーなどは、ロックで飲むのは当たり前です。
これは「醸造酒(じょうぞうしゅ)」と「蒸留酒(じょうりゅうしゅ)」の違いで区別することができます。
醸造酒は、穀物や果物を酵母でアルコール発酵させて作ります。ワイン、日本酒、ビールなどが有名です。アルコール度数が高くなると、酵母の働きが止まるので、アルコール度数は15%前後となるのが一般的です。
蒸留酒は、醸造酒を蒸留して濃縮することで、アルコール度数を高めて作ります。焼酎、ブランデー、ウイスキー、ウォッカ、ジンなどが該当します。蒸留酒のアルコール度数は40~60%近くあります。中にはアルコール度数96%という、ほぼエタノールの「スピリタス」というお酒もあります。
醸造酒に氷を入れないのは、味が薄まるためです。薄めないことを前提に作られているので、醸造酒本来の味を楽しめなくなる、というのが主な理由です。生産者に対して失礼になるということですね。
一方、蒸留酒はアルコール度数が高いので、水や炭酸水で割って飲むのが当たり前です。むしろ氷を入れるだけのロックは、蒸留酒本来の味わいに近くなります。
しかしながら、どのように飲むかは個人の自由なので、醸造酒だからといって氷を入れていはいけないということは、まったくありません。
発泡酒と無発泡酒
また、炭酸があるかないかで区別することもできます。
ビールやスパークリングワイン(シャンパン)などの、発泡性があるアルコール飲量にはあまり氷を入れません。一方、無炭酸のアルコール飲量には氷を入れることが多いです。
これは、グラスに氷を入れることにより、炭酸が抜けやすくなってしまうためと言われています。割り箸を入れるのと同じで、氷表面の物理的な凹凸が、気泡を作りやすくするためとされています。
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しかしながら、炭酸水を使ったカクテルの場合は、氷を入れるのが当たり前です。氷が入らない方が珍しいでしょう。
天然の炭酸は抜けない方がよく、後から追加した炭酸は抜けてもいいということでしょうか。結局のところ、気分の問題でしかないので、発泡酒だから入れていはいけないということはなく、好きにすればいいということになります。
なお、日本で「発泡酒」と言った場合、「炭酸ガスの入った酒」ではなく、「ビール風アルコール飲料」ということになっています。これは酒税法の定義上の問題です。
まとめ ワインに氷を入れない理由
記事の内容をまとめます。
- ワインに氷を入れないのは、水で薄まることと、温度が下がることにより、ワインの風味が変化することを避けるため
- ワインの温度を下げたければ、直接氷を入れるのではなく、ボトルごと冷やせばよい
- ソムリエがいるような高級レストランでは、ソムリエが責任を持って温度管理しているので、氷を入れることはマナー違反となる
- 高級レストランでない場合は、好きなように飲めば良い
- ヨーロッパでも、ワインに氷を入れることはよくある
- ワインの水割り、炭酸水割り、他のリキュールを加えたカクテルもよくある
- 一般的に、醸造酒には氷を入れず、醸造酒には氷を入れることが多い
- 炭酸ガスの入った酒に氷は入れないが、炭酸水を使ったカクテルには氷を入れることが多い
- 結局のところ、ワインに限らず、自分の好きなように飲めば良い