オメガは腕時計を代表するブランドとして世界的に知られています。一方グランドセイコーは、技術的に優れているにも関わらず、知名度がそこまで高くないという違いがあります。この記事では、グランドセイコーとオメガの特徴と何が凄いのかについて、それぞれを代表するムーブメントの違いから解説いたします。また、精度やメンテナンスの頻度、資産価値という面から比較を行います。
ポイント
- グランドセイコーの概要と歴史
- 9Sメカニカル、9Fクォーツ、9Rスプリングドライブとは
- オメガの概要と歴史
- コーアクシャル脱進機、マスタークロノメーターとは
- グランドセイコーとオメガの比較
グランドセイコーとオメガはどっちが技術力高い?
グランドセイコーとオメガの、それぞれの概要と歴史、代表的ムーブメントについて解説します。
グランドセイコーとは
「グランドセイコー(Grand Seiko)」は、日本の高級腕時計ブランドです。最初はセイコー(Seiko)の「最高級モデル」という位置づけでしたが、2017年から「独立ブランド」となりました。
グランドセイコーの歴史
グランドセイコーの歴史は、スイスと日本、機械式時計とクォーツ式時計という関係から見る必要があります。
19世紀後半から20世紀にかけて、機械式時計と言えばスイスでした。一方日本の時計産業は、第二次世界大戦の影響で壊滅的な打撃を受け、技術的にも大きく遅れを取っていました。
1950年代、日本の時計産業は立て直しに奔走していました。特に1959年に、東京が1964年のオリンピック開催地として選ばれると、そこでの公式タイムキーパーとなることが、一つのマイルストーンとなりました。
そういう流れの中、セイコーは1960年に自社の最高級モデルとして「グランドセイコー」を発表します。ここでの目標は、世界に通用する腕時計を作るということでした。
1960年代、グランドセイコーはスイスのクロノメーター規格と同水準の精度を実現するなどして、着実に品質を高めていきます。
しかし1969年、セイコーが世界初のクォーツ式腕時計を発表すると、状況が一変します。
クォーツ式時計は、精度と実用性の面で機械式時計を大きく上回り、ヨーロッパの機械式時計産業を崩壊させました。それは同時にグランドセイコーの意義も失うこととなり、1975年には生産中止となりました。
1980年代後半、グランドセイコーはクォーツ式ムーブメントを搭載し、一応の復活を遂げます。
1990年代に入ると、ヨーロッパの機械式時計は、高級路線で復活を遂げます。それに呼応する形で、グランドセイコーも機械式ムーブメントを再投入しました。20年近いブランクがあることから、また立て直しからの始まりでした。
2010年頃から、ロレックス等の高級ブランドに人気が集中するようになると、グランドセイコーも本格的に海外進出を始めます。
そして2017年、「グランドセイコー」としてブランドを独立させ、高級腕時計ブランドの一つとして、世界的に認められるようになりました。
グランドセイコーのムーブメント
グランドセイコーのムーブメントには、機械式、クォーツ式、機械とクォーツのハイブリッド式の3種類があります。上記のように、クォーツと機械の両方の歴史を辿ってきたからこそ可能となっていると言えるでしょう。
9Sメカニカル
9Sメカニカルは、ゼンマイを動力源とする、機械式ムーブメントです。
その精度を高めるために、0.001mm、0.000001gレベルでの調整が施されています。
1960年の初代グランドセイコーは、スイスの「クロノメーター規格」に合格することが一つの目標でした。
1966年には独自の「GS(グランドセイコー)規格」を制定し、1998年にはさらに厳しい「新GS規格」を設けました。
そして、さらにその上を行く「GSS(グランドセイコースペシャル)規格」が存在します。GSS規格は、平均日差-2/+4秒の高精度を誇り、通常より何倍もの生産コストがかかることから、作られる数も限られています。
ちなみに一般的な機械式時計は日差±20秒、クロノメーター認定を受けた時計は日差±10秒程度とされています。
新GS規格は日差±8秒、GSS規格は日差±6秒程度の精度を誇ります。
9Fクォーツ
9Fクォーツは、電池を動力源とするムーブメントです。水晶(クォーツ)に電圧をかけると規則的に振動する仕組みを利用して、正確に歯車を動かす仕組みです。
クォーツ式ムーブメントは、機械式より高い精度をほこり、長時間動きますが、大きなトルクを出すことができません。そのため、針が細かったり、瞬間日送りカレンダーが搭載できないという問題がありました。
9Fクォーツは、1秒間に2回信号を送る「ツインパルス制御モーター」を搭載することにより、大きなトルクを実現しています。
また、クォーツ式時計としては珍しく、全て手作業で組み上げられています。
一般的なクォーツ式時計の精度が月差±20秒程度のところ、年差±10秒程度の精度を実現しています。
9Rスプリングドライブ
スプリングドライブは、ゼンマイを動力源としつつ、水晶振動子によって正確に精度を保つ、グランドセイコー独自のシステムです。
ゼンマイがほどける力を利用して、コイルでわずかな電力を発電し、ICと水晶振動子に伝えるハイブリッドシステムです。
月差±10秒程度の精度を実現しています。精度はクォーツ式に劣りますが、電池を使用していないというところがポイントです。
オメガとは
「オメガ(Omega)」は、スイスの高級時計ブランドです。ロレックスと並び、腕時計を代表するブランドとして世界的に有名です。
特に、高い信頼性と堅牢性で知られており、宇宙分野やスポーツ分野との関わりが強いです。
オメガの歴史
一般的に、機械式腕時計が普及したのは、第一次世界大戦(1914~1918年)の頃と言われています。そして、1969年のクォーツ式腕時計の登場に伴い、一旦は終了しました。
しかし機械式腕時計は、1970年代以降も、新素材の開発や、新しい機構の発明などで、進化を続けています。そしてそれは、オメガの歴史でもあります。
オメガは1848年に、ルイ・ブランがスイスで工房を開いたところから始まります。
1892年に、世界で初めてミニッツリピーターを搭載した腕時計を制作しました。
1894年に、究極という意味を込めて、社名を「オメガ」に変更します。
20世紀に入ると、様々なスポーツ大会で、公式タイムキーバーを務めるようになります。
1931年、ジュネーブ天文台での精度試験において、極めて優秀な結果を残しました。
1932年、ロサンゼルスオリンピック大会で公式タイムキーパーを務めると、以後ほとんどのオリンピックでタイムキーパーとして採用されています。単なる時計だけでなく、たくさんの計測器や電子機器を発明し、スポーツの世界を支えています。
1965年、NASAは宇宙環境で耐えられる腕時計を求めて、過酷な試験を実施します。このテストに唯一合格したのが、オメガのスピードマスターでした。現在においても、NASA、及び国際宇宙機関の船外活動で認定されている唯一のブランドとなっています。
そして1969年、アボロ11号の月面着陸の際に装着されていた時計は、もちろんスピードマスターでした。このことから「ムーンウォッチ」のニックネームが付けられました。
1999年、機械式時計の新しい機構であるコーアクシャル脱進機を発表します。脱進機としては、250年ぶりの革新であったとされています。
2008年、シリコン製のヒゲゼンマイを開発し、耐磁性を高めました。
2013年、15,000ガウスの耐磁性を誇る新型ムーブメントを発表します。
2015年、これまでの品質基準では不十分ということから、マスタークロノメーターという新しい基準を発表しました。
オメガのムーブメント
オメガを代表する「コーアクシャル脱進機」は、高精度かつ、耐久性が高いことが知られています。
脱進機とは
「脱進機・エスケープメント(escapement)」とは、ゼンマイがほどけるエネルギーを、正確な往復運動に変換するための機構です。機械式時計の「カチカチ」という規則正しい音は、脱進機によるものです。
脱進機は14世紀にはすでに存在したとされていますが、現在の腕時計に搭載されている脱進機は、1754年にトーマス・マッジ(Thomas Mudge)が発明したスイスレバー脱進機(Swiss lever escapement)が原型となっています。
コーアクシャル脱進機とは
「コーアクシャル脱進機(Coaxial escapement)」とは、1974年頃にイギリスの時計技師ジョージ・ダニエルズ(George Daniels)が発明した、新しい機構です。1980年に特許が取得されました。
「コーアクシャル」とは「同軸」という意味です。「ガンギ車」を2枚同軸上に重ねていることが特徴です。これにより摩擦が少なくなり、注油の必要もなくなりました。結果として、オーバーホールの頻度を下げ、費用を抑えることができます。
1990年にオメガが特許を買い取り、1999年に製品化されました。
マスターコーアクシャル脱進機とは
マスターコーアクシャル脱進機は、シリコンや合金などの素材を使用することで、耐磁性を高めたコーアクシャル脱進機です。
マスタークロノメーターとは
マスタークロノメーターは、COSCとMETAS両方の検査基準に合格したクロノメーターだけに与えられる、オメガの称号です。
まず「クロノメーター」とは、スイス公式クロノメーター検定機関、COSC(Contrôle Officiel Suisse des Chronomètres)が行う検査で、基準を満たしたムーブメントに与えられる称号です温度や位置が異なる環境で、日差-4/+6秒の精度が求められます。
「マスタークロノメーター」は、COSCに加えて、「METAS(スイス連邦計量研究所)」の検査にも合格したムーブメントに与えられる称号です。COSCとの違いは、耐磁性や耐水性のテストが追加されていることです。日差0/+5秒の精度が求められます。
グランドセイコーとオメガ買うならどっち?
グランドセイコーとオメガを、精度、オーバーホールの頻度、つけている人のイメージ、資産価値という点から比較をおこないます。
グランドセイコーとオメガはどっちが精度が高い?
グランドセイコーとオメガのムーブメント(種類・認定)の、精度の比較を行います。
ブランド | ムーブメント | 精度 |
---|---|---|
一般的なメーカー | 機械式時計 | 日差±20秒 |
クォーツ式時計 | 月差±20秒 | |
グランドセイコー | 9Sメカニカル 新GS | 日差±8秒 |
9Sメカニカル GSS | 日差±6秒 | |
9Fスプリングドライブ | 月差±10秒 | |
9Fクォーツ | 年差±10秒 | |
オメガ | クロノメーター | 日差±10秒 |
マスタークロノメーター | 日差±5秒 |
グランドセイコーとオメガ両方とも、一般的なメーカーに比べて、かなり高い精度を実現していることが分かります。
グランドセイコーの「9Sメカニカル GSS」と、オメガの「マスタークロノメーター」は、ほぼ同水準の精度と言えます。
それに比べると9Fスプリングドライブの精度は、月にわずか数秒なので、かなり高い精度にあることが分かります。
グランドセイコーとオメガは何年持つ?
時計が何年持つかははっきりとは分かりませんが、50年前の時計が現在もそのままの状態で動いていることは、極めて稀です。
現在は昔よりも素材が良くなっているので、より長く持つとは考えられます。
仮に50年持つとすると、20歳で買った時計が70歳まで持つということになるので、一生物の製品としては十分なのではないかと思います。
50年以上持つかは、未知数です。部品の調達が困難になり、オリジナルを保った状態で修理ができなくなる可能性は高いです。
長く時計を使うためには、定期的なオーバーホール(グランドセイコーではコンプリートサービス)が必須です。
グランドセイコーは、クォーツ式の電池の寿命が3年、コンプリートサービスは3~4年ごとが推奨されています。
オメガのコーアクシャル脱進機は、耐久性が高いことで知られており、8~10年ごとのオーバーホールが推奨されています。
グランドセイコーよりオメガの方が、メンテナンス頻度と、かかる費用は少なくなると言えます。
つけている人のイメージ
グランドセイコーとオメガを着用している人が重視するポイントを、それぞれ3つご紹介します。
グランドセイコー
- シンプル:グランドセイコーのシンプルで洗練されたデザインは、上品で控えめな人に好まれています。
- 技術:特にスプリングドライブなど、技術にロマンを感じる人に人気があります。
- 日本:日本のブランドということで、日本愛のある人から選ばれています。国を代表する政治家であったり、最近では大谷翔平選手が着用していたことでも話題となりました。
オメガ
- ステータス:圧倒的な知名度を誇るオメガは、地位や人気を重視する方には定番の選択肢です。
- 伝統:オメガのデザインは、クラシックでエレガントなスタイルを好む方に好まれています。
- アクティブ:伝統的である一方、堅牢さでも知られているため、エレガントかつアクティブさを求めている方に選ばれています。
グランドセイコーとオメガの資産価値
近年、高級時計は、ロレックスを中心に値段が高騰しています。これは、時計が優秀な投資対象として見なされるようになったためです。簡単に言えば、買ったときよりも高く売れる可能性があるということです。
グランドセイコーは、まだ投資対象としては見なされておらず、極端に値上がりするということはないようです。しかしリセールバリューは50%程度と、比較的高い水準を保っています。スプリングドライブを中心に、今後は値上がりする可能性もあります。
また、リセールバリューが50%ということは、実質半額ということなので、購入時のハードルも下がります。
一方オメガは、モデルによってリセールバリューがかなり異なり、20~70%ほどの幅があります。
スピードマスターやシーマスターに人気が集中しているので、資産として購入するならば、モデルや状態をよく検討する必要があるでしょう。
グランドセイコーとオメガどっちを選ぶ?
記事の内容を表にまとめます。
グランドセイコー | オメガ | |
---|---|---|
拠点 | 日本 | スイス |
創業 | 1960(2017) | 1848 |
グループ | セイコー | スウォッチ |
代表的ムーブメント | スプリングドライブ | コーアクシャル脱進機 |
ムーブメントの特徴 | 精度 | 精度と耐久性 |
認証規格 | GSS | マスタークロノメーター |
デザインの特徴 | シンプル | エレガント |
イメージ | 洗練、技術、日本 | ステータス、伝統、アクティブ |
リセールバリュー | 50% | 20~70% |