庭などに猫が入ってくるのを防ぐ方法はいくつかありますが、石灰を撒くというのも一つの手です。しかし石灰と言った場合に、化学的に全然別のものを指していることがありますので、まずは違いを理解しましょう。ここでは石灰の種類と、本当に猫に効果があるのか、別の方法はないのかについて、簡単に分かりやすくご説明します。
石灰で猫が来なくなる方法って本当?
石灰とは何か、石灰と猫よけについて、石灰と乾燥剤のち外、猫にとって石灰の危険性について解説します。
石灰とは?
「石灰(せっかい)」とは「石灰石(せっかいせき)」「生石灰(せいせっかい)」「消石灰(しょうせっかい)」「炭酸カルシウム」などの総称です。人によって指しているものが違うことがあるので注意が必要です。「猫よけ」で石灰と言った場合は、おそらく「炭酸カルシウム」のことを指しています。
石灰岩・石灰石とは
「石灰岩(せっかいがん)」とは「炭酸カルシウム(CaCO3)」を多く含む岩のことです。用途や生成のされ方によって「石灰石」「方解石」「霰石」「大理石」「鍾乳石」「石筍」「トラバーチン」など、様々な呼び名があります。
石灰石は、セメントに加工されたり、粉末にして土壌改良材として使われたりと、多くの用途があります。
CaCO3
生石灰とは
「生石灰(せいせっかい)」は「酸化カルシウム(CaO)」のことです。生石灰(せいせっかい)と消石灰(しょうせっかい)の呼び方が紛らわしいので「きせっかい」と呼ばれることもあります。石灰石を900℃以上で熱すると、酸化カルシウムと二酸化炭素に分解されます。
水を吸収し発熱する特性があるため、乾燥剤、発熱剤として使用されます。またモルタルやコンクリートの原料となります。
CaCO3 → CaO + CO2
消石灰とは
「消石灰(しょうせっかい)」は「水酸化カルシウム(Ca(OH)2)」のことです。生石灰に水を加えると生成されます。
強いアルカリ性を持つため、酸性の土壌を中和するために使われます。かつては、運動場で白線を引くための「ライン引き」として使われましたが、皮膚に触れるとかぶれるなどの危険性があったため、2007年以降は炭酸カルシウムが使われています。コンニャクの凝固剤でもあります。
CaO + H2O → Ca(OH)2
炭酸カルシウムとは
「炭酸カルシウム(CaCO3)」は、水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応することで合成されます。消石灰を密封せずに放置していると、空気中の水と二酸化炭素を吸収して、炭酸カルシウムとなります。元々の「石灰岩」の主成分でしたが、それが抽出された形となります。
チョークや肥料、塗料、研磨剤など様々な用途があります。また「猫よけ」として使われることもあります。
Ca(OH)2 + H2CO3 → CaCO3 + 2H2O
苦土石灰とは
「苦土石灰(くどせっかい)」は「炭酸マグネシウム(MgCO3)」と「炭酸カルシウム(CaCO3)」を主成分とする肥料です。炭酸カルシウムは「無味」ですが、炭酸マグネシウムは「苦土」とある通り「苦味」があります。
石灰で猫が来なくなるとされる理由
猫が石灰を避けるのは、足に粉が付くのが嫌だからと言われています。
また、「炭酸カルシウム」ではなく「苦土石灰」を撒いた場合は、足についた粉を舐めると苦味がするので嫌がるという説があります。
猫よけに石灰がおすすめできない理由
猫が石灰を避けるかどうかは、個体差が大きいため、やってみるまで分かりません。また科学的な根拠もありません。
仮に効果があったとしても、雨や風で流れてしまうので、効果を持続できないという問題もあります。
さらに上記で説明をしたように「石灰」という意味が人によって異なるので、別のものを指している可能性があります。「炭酸カルシウム」であればまだ良いのですが、「生石灰」は水に触れるだけで発熱しますし、「消石灰」は目に入ると失明の可能性もあります。また、土壌がアルカリ性になるので、場所を考えなければいけません。
石灰と乾燥剤って違うの?
乾燥剤にはいくつかの種類があり、石灰と呼ばれているのは「生石灰・酸化カルシウム」のことです。土壌の酸性を中和するためであれば流用はできますが、猫よけとしての効果は見込めないでしょう。
シリカゲル・二酸化ケイ素(SiO2)
無力透明のビーズ状で、小さな穴が開いたポリフィルムの袋などに入っています。化学反応ではなく、物理的に水を吸着して離しません。体積の変化もないため、食品から精密機器まで、幅広く使われています。
生石灰・酸化カルシウム(CaO)
白い小石で、不透明な紙の袋に入っています。水を吸収すると、消石灰となり、白い粉となって体積が増えます。急激に吸湿すると発熱します。お菓子などに使われています。
塩化カルシウム(CaCl2)
水分を吸収すると、ゼリー状になります。広い空間の除湿に向いており、押入れなどに使われます。
脱酸素剤(Fe)
脱酸素剤は、水分ではなく、酸素を吸着して、食品が酸化することを防ぎます。主に鉄が酸素を吸着して錆びる反応を利用しています。使い捨てカイロと同じ仕組みなので、発熱します。
その他
「合成ゼオライト」「クレイ系」などがあります。
石灰って猫にとって危険?
まず人間にとってですが、「炭酸カルシウム」は触っても問題ありません。チョークや貝殻を触ると同じです。食品添加物としても認められていますので、少量であれば食べても大丈夫です。卵の殻を食べてしまった、みたいなものです。
一方、「生石灰(酸化カルシウム)」は水に触れると発熱しますし、「消石灰(水酸化カルシウム)」は肌に付着すると炎症したり、目に入ると視力障害をおこしたりする危険性があります。
猫にとっても同様の危険性はありますが、野良猫対策というよりも、「家で飼っている猫が乾燥剤を食べてしまった」という問題の方が多いでしょう。特に紙のパックは、爪がいい感じに引っかかるし、カサカサ音がするので、猫にとっては格好の遊び道具となります。
シリカゲル系であれば、少量であれば問題ありません。水分を多く取り、便として排出されるのを待ちましょう。
生石灰系であれば、粘膜の水分と反応して火傷や炎症をする可能性があります。すぐに獣医師に相談しましょう。
塩化カルシウム系であれば、比較的安全とされていますが、様子がおかしければ動物病院に連れていきましょう。
脱酸素剤も主成分は鉄なので、大きな問題はありませんが、様子がおかしければ動物病院に連れていきましょう。
猫が乾燥剤を食べてしまった場合は、生石灰系が要注意です。白い粉ですので、すぐに分かります。
猫が来なくなる方法って石灰以外にもある?
石灰以外の身近なもので、猫よけとして使えるものについてご紹介します。
コーヒー
猫が庭に入ってこないようにする簡単な方法として「コーヒー」があります。どの対策にも言えることですが、個体差があるので必ず効くという訳ではありませんが、コーヒーかすであれば、コストゼロでお手軽に試すことができるという利点があります。また、人間にとっては不快な香りではないというところも大きなメリットです。隣人トラブルにもなりません。土の上であれば、目立ちにくいというのも嬉しいところです。
猫は嗅覚に優れた動物なので、コーヒーの強い香りが苦手とされています。また一般的に動物にとってカフェインは毒なので、それを避けているという説もあります。
コーヒーを撒くならば、ドリップコーヒーなどのカスを、フライパンや電子レンジなどで乾燥させてからにするとよいでしょう。逆に水で薄めてスプレーするという方法もあります。
欠点としては、雨などですぐに流れてしまうので、効果が持続しないというところです。短くて一日、長くても一週間でしょう。また習慣的にコーヒーを飲む人でなければ、粉末を大量に用意することができないという問題もあります。
全体的には効果が薄いながらも、どうせ捨てるなものなので、試す価値はあるというところです。
重曹
「重曹(じゅうそう)」とは「炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)」のことです。多くの用途がありますが、家庭用としては洗剤・研磨剤・脱臭剤として使用されています。
猫よけとしては、猫が嫌がるのではなく、「猫の匂いを消す」効果を期待して使用されます。例えば、庭が猫のトイレとして認識されると、毎回用を足しにやってくることになってしまいます。それを防ぐためにまずは匂いを消すのです。
使い方としては、粉末をそのまま撒いたり、水に溶かしたものを巻く方法があります。土がアルカリ性になりますので、植物を植えている場合は注意しましょう。
猫が来なくなる効果はないので、他の忌避剤と合わせて使用する必要があります。
酢
「酢」は、人間にとってもかなり強い刺激臭がしますので、人間よりも嗅覚に優れた猫にとっては、耐え難い匂いとなります。
猫の通り道に、原液か10倍程度に薄めたものを使用してください。瞬間的には、まず間違いなく効果を発揮します。
問題は効果が長続きしないことです。雨が降れば一瞬で終わりますし、晴れていても一日というところでしょう。また食用酢を原液で使うとなると、かなりのコスト高になります。植物にとっても有害で、枯らしてしまうことになりますので注意してください。
木酢液・竹酢液
食用酢を使うならば、園芸用の「木酢液(もくさくえき)」「竹酢液(ちくさくえき)」を使う方が経済的です。木炭や竹炭を作る時に出てくる煙が冷やされて液体になったものです。虫除けや消臭効果、土壌改良などの効果がある他、猫やネズミが嫌う匂いでもあります。
スポンジや布に染み込ませて、猫の通り道に置いておくとよいでしょう。
ペットボトル
「水を入れたペットボトル」を猫の通り道に置いておくと、キラキラ光るの嫌がって寄ってこないというものですが……まったく効果はありません。仮に一時的に効果があったとしても、猫は学習能力が高いので、危険がないと判断してすぐに慣れてしまいます。
なぜこんなに効果がない方法が広まったのかは甚だ疑問ですが、1980年代にアメリカの新聞に投稿された一般市民の体験談、同じく1980年代のニュージーランドのラジオで語られたエイプリールネタ、などの説があります。
猫避けに効果がないばかりか、ペットボトルがレンズとなって太陽光を集め、火災の原因となる可能性があります。絶対にやめたほうがいいでしょう。
まとめ 結局石灰を撒く方法って猫が来なくなるの?
猫よけとして石灰をまく方法は、ほとんど効果が期待できないと思われます。猫が石灰を避ける理由が、足に粉が付くと嫌だからということであれば、粉状のものであれば何でもいいということになります。
農業や園芸をしていて、「石灰」や「苦土石灰」が余っているのであれば、試してみてもいいかもしれません。その場合でも、他の方法や市販のグッズと併用をするのがよいでしょう。