「知らんけど」は関西圏で昔から使われてきた言葉ですが、2022年頃より全国的な流行語となっています。しかし不愉快に感じる人も多くいます。ここでは「知らんけど」はどういう意味か、どのように流行してきたのか、なぜ嫌いな人がいるかについて、分かりやすくご説明します。
不愉快と言われる「知らんけど」の元ネタ
「知らんけど」の意味
「知らんけど」は、主に関西地方で使われる言葉で「確証は持てないけれど」という意味です。
「知らんけど」は昔から使われており、100年前の記録にも残っています。それがここ10年ほどで、より使われるようになり、2022年頃からは全国的な流行語となりました。
言語学者の金水敏(きんすいさとし)さんによると、元々は「よう知らんけど」として使われていたが、短くなって「知らんけど」になったということです。
「知らない」の大阪弁活用
「知らんけど」が注目されていますが、大阪では様々な「知らない」が使われています。「知らんけど」はその一つにすぎません。
知らん | 本当に知らない |
知らんわ | 私は知らない |
知らんし | 興味がない |
知らんねん | 知らなくて、ごめんなさい |
知らんがな | 私には関係がない |
知らんけど | 責任は持てないけれど |
「知らんけど」の使い方
「知らんけど」は標準語にすると「私は知らないのですが」ですが、その使い方はもっと繊細な意味が含まれています。
ツッコミ待ち
よく言われるのは「知らんけど」は「知らんのかい!」の「ツッコミ待ち」だということです。つまり「知らんけど」は「ボケ」です。関西以外では「知らないのに話さないで欲しい」と思ってしまいますが、関西では「なんで知らないのに話したの!?」とツッコミが入ることにより、会話が完成するというものです。
関西でも毎回ツッコむのかというと、そうでもなく、結構な頻度で省略されるそうです。しかし言葉では省略されていても、目線や呼吸、身振りなどでツッコミが入ったことが分かります。
関西以外ではこのツッコミがないために、ただ不愉快になって終わった、ということになりがちです。
この話は盛っているので、気にしないで欲しい
大阪では「オチのない話をするな」と言われることがあります。「オチのある話・面白い話」をするならば、多少の嘘も必要となります。そうやって話を盛り上げた後、「知らんけど」を付けることで、「この話には嘘が含まれています」ということを伝えることができます。
つまり「知らんけど」は、「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」の省略形です。
責任逃れ
「この情報は正確ではないかもしれない」という断りの意味です。さらに言えば「間違っていたからといって、私のせいにしないで欲しい」という意味が含まれています。
ちょっと卑怯なようにも感じますが、言葉に全責任を持たなければいけなくなると、何も話せなくなってしまいます。「知らんけど」には、会話を堅苦しくせずに、お互い気軽に話をすることができるようになる、というメリットがあります。
自分はこう思うが、他の人がどう思うかは知らない
「(正しいかどうかは)私は知らないけれど」ではなく、「(他の人がどう思うかは)私は知らないけれど」という意味です。これはあくまでも私個人の意見で、多数派ではないかもしれないし、間違っているかもしれない、ということを強調する時に使われます。
相手の負担を和らげる
上の意味と似ていますが、相手を注意する時に「これは皆が言っている訳ではなく、私個人の考えだけど」と限定することで、相手の心理的負担を軽減させることができます。
知らんけどの目的・効果
まとめると「知らんけど」には、次の3つの役割があると言えます。
- 会話を面白くする
- 責任を負わないことで、気軽に話をできるようにする
- 相手が傷つかないようにする
この背景には、商人とお笑い、会話と気遣いの文化があります。
「知らんけど」が不愉快な理由
無責任である
「知らんけど」が嫌われる理由は、無責任に感じるからです。自分が確証を持てないことを話すのは無責任であり、誠実でないということです。
相手のことを真剣に考えていない、どうでもいい人と思っている、会話を早く終わらせたい、というメッセージを送ることにもなります。
「知らんけど」を最後に言う
「知らんけど」は文末につけられることが多いです。
- 「私は詳しくないのですが、◯◯です」
であればまだ良いのですが、
- 「◯◯です。知らんけど」
と言われるからイラっとするのです。
なぜ最初ではなく最後につけられるのかというと、関西圏では「オチ」に使われているからだと思われます。それがオチのない文化圏では、ただの悪態になってしまいます。
「知らんけど」は関西以外で使う?
私は東京在住ですが、少なくとも大人の間では、「知らんけど」は一度も聞いたことがありません。もしそんなことを言う人がいれば、一発で信用を失うことになるでしょう。東京には、様々な場所から人が集まりますので、誤解を生まないようなシンプルな会話が好まれます。東京にはもちろん関西から来た人もたくさんいますが、その方々も「知らんけど」は使っていませんでした。
関西圏においても、重要な仕事の上では「知らんけど」は使わないのではないかと思います。ただ、そのラインの位置が、他の地域と異なるのかなという気はします。
面白いは正義
関西圏、特に大阪で「知らんけど」が使われる理由を調べていると、「面白い話をするためであれば、多少の犠牲は仕方がない」精神があるように思えます。ここで言う「犠牲」とは、嘘を混ぜる、大げさに表現する、知らないことを知っているように話す、誰かを笑い者にする、等です。これらに問題があることは分かっているが、それよりも「面白い」ことの方が重要であり、あなたもそれを分かってくれますよね、という意味で、最後に「知らんけど」をつけているという感じです。
他の地域では、そもそも「面白い話をしなければいけない」とは考えないので、「知らないんだったら、最初から話すなよ」ということになります。
「知らんけど」とSNS
ところが近年、関西圏特有と思われていた「知らんけど」が、Z世代を中心に、全国的に流行してきました。この裏には、SNSの影響もあるのではないかと思います。
SNSは「いいね」によって「面白い度」が数値化されます。それにより承認欲求が高まり、誰もが「面白い話をしよう」と考えるようになった結果、話が盛られるようになり、「知らんけど」も増えたのではないかと思います。
情報ソースの確認、ファクトチェックもどんどん難しくなってきています。専門家ですら判断できない時代です。何が真実か分からない、でもこの情報は伝えたい、という場合にも、炎上回避として「(本当かどうかは)知らんけど」は使えます。
しかしSNSでは、口頭ではなく文字として残り、前後の文脈や、微妙な感情も伝わりません。それがより不快に感じる原因となっています。
関西の繊細さが伝わっていない
上記で見たように、元々の関西圏の「知らんけど」には複数の使われ方があり、相手を気遣うことが基本となっています。それを単純化して「責任逃れ」という用途だけで伝わったために、無責任な一言という意味になってしまいました。
「知らんけど」が不愉快な理由は、「関西の繊細な文化の一部を抜き出し、他の文化圏に持ってきてしまった」ことが一番の原因ではないかと思います。
「知らんけど」は不愉快と言われすぎて、すでに流行りは過ぎた?
ここでは、知らんけどの流行に影響を与えたと思われる作品等をご紹介します。
『何でも言うことを聞いてくれるアカネチャン』(2017年12月)
アカネちゃんが話を聞いてくれる「だけ」の歌(?)です。「せやな」「そやな」「それな」「あれな」「ほんま」「わかる」「ええんちゃう」で同意してくれ、最後の決め台詞は「知らんけど」です。
音声読み上げソフト・VOICEROIDの「琴葉茜(ことのはあかね)」をボーカルに使用しています。「琴葉茜(あかね)」と「琴葉葵(あおい)」は双子という設定で、茜ちゃんは関西弁アクセント、葵ちゃんは標準語アクセントで読み上げるモデルとなっています。
2023年現在、2,000万再生を達成しています。2017年の投稿当時は、大阪弁の「せやな」が便利すぎる、という文脈で流行していたと思います。「知らんけど」はそこまで話題になっていませんでした。
- せやな
- せやろ
- せやろか
- せやせや
- せやで
- せやなあ
- せやからな
- せやいうても
- せやかて
- せやろが
「かまいたちの知らんけど」(2020年2月)
「かまいたちの知らんけど」は、2021年1月より毎日放送で放送されているTV番組です。パイロット版は2020年2月から始まりました。
元々は、視聴者から寄せられた「不確かな情報」を番組が検証するという内容でした。番組内でTwitterを活用しているため、SNSで拡散されやすいという特徴があります。
ジャニーズWEST『しらんけど』(2022年3月)
ジャニーズWEST - しらんけど [Official Music Video (Short Ver.)]
大阪府の面積は ちょっと前まで日本で最小
やけど関空出来て 香川抜いて今はブービー
知らんけど(知らんのかい)
ジャニーズWESTの8thアルバム「Mixed Juice」に収録された楽曲『しらんけど』は、超おしゃれなシティポップに、くだらない歌詞を、ラップ調でスタイリッシュに歌い上げるという、シュールでギャップがクセになる一曲です。
「Mixed Juice」はオリコン1位、20万枚以上の売上を達成しています。様々な会話シチュエーションで「知らんけど(知らんのかい)」が使われており、おそらく「知らんけど」の流行に対して、一番影響力があったと思われます。
令和4年度大阪市防火標語「知らんけど 言うたらあかん 火の始末」(2022年6月)
大阪市消防局の防火標語として、「『知らんけど』 言うたらあかん 火の始末」が選ばれました。
「知らんけど」は昔から使われている言葉ですが、大阪においても2022年に流行になったことが分かります。
「現代用語の基礎知識」選 2022ユーキャン新語・流行語大賞(2022年11月)
「知らんけど」は、2022年11月に「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされ、2022年12月にはトップテンに選べれました。
- キーウ
- きつねダンス
- 国葬儀
- 宗教2世
- 知らんけど
- スマホショルダー
- てまえどり
- 村神様
- Yakult(ヤクルト)1000
- 悪い円安
※ 50音順
「ふるさと納税サイト・ふるラボ」のCM(2022年12月)
【#ふるさと納税 サイト・ふるラボ】CM|「エアロビ」篇 30秒
アナウンサーの上田剛彦さん・増田紗織さんが、「知らんけど」を連呼しながら踊るCMです。
これは「知らんけど」を流行らせたというより、流行に乗っかったCMと思われます。
知らんけどの流行は2022年がピーク?
Googleの検索数で見ると、「知らんけど」は2022年にピークとなり、最近は下がってきていることが分かります。
2004年も高くなっていますが、何があったのか分かりませんでした。
「知らんけど」は使われすぎて、関西でもすでに飽きられつつあり、スベっているという意見もあります。
まとめ 知らんけどが不愉快な理由
「知らんけど」は、元々関西圏で、会話を円滑にするための言葉として使われていました。それがネタとして、様々な作品や番組で使われた結果、流行語として全国に広まりました。
ただ流行する中で、会話の微妙なやり取りが失われ、ただ単に「責任逃れ」という意味で使われるようになってしまい、多くの人が不愉快に感じる結果になったと思われます。